■大熊の半沢怜君
「お父さん、高校3年間、野球に打ち込みたいんだ。私立の高校に進学させてほしい」。会津若松市の借り上げ住宅に暮らす大熊町の半沢怜(れん)君(15)=大熊中3年=は、初めて大きな人生の選択をした。入学試験日は1月下旬。不安もあるが、待ち遠しい。
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会津若松市に避難し、硬式野球チーム「会津リトルシニア」に所属した。仲間は、会津地方の高校に進学する。大熊町の「相双中央リトルシニア」時代の友人は、浜通りの高校や、県内の私立高校に進む。野球を続けるなら、私立の強豪校で力を試したい。でも、会津で出会った仲間と野球を続けたい気持ちもある。葛藤が続いた。
ここを離れることになれば、下宿生活を強いられる。私立高校は県立高校以上にお金が必要だ。震災後、家族と共に県内外の避難所を転々とし、今後、家族の生活がどうなるかも不安だった。「野球を続けることが、家計を圧迫するのではないか」。罪悪感が心の中にあった。
先月下旬、父佐田幸さん(48)の一言が、背中を押してくれた。「お金の心配はするな。やりたいようにやればいい」。母美枝さん(46)も気持ちは同じだった。恥ずかしくて「ありがとう」と言えなかったが、視界が一気に開けた気がした。
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グラブやスパイクは、警戒区域指定前の4月に両親が自宅に戻り、持ってきてくれた。マスクを着け、足に買い物袋を巻き、ナイロンジャンパーを着込んで、必死の思いで戻ってくれたことを知っている。グラブを触ると、2人の気持ちが伝わってくる。「合格して、必ず甲子園のスタンドに連れて行くから」。自然と浮かぶ青写真には、いつも両親の姿がある。
(カテゴリー:連載・今を生きる)