二本松市のマンションの室内で屋外よりも高い放射線量が検出された問題で、同市の生コン業者以外にも放射性物質に汚染された疑いがある砕石が流通していたことが16日判明し、関係者に不安が広がった。砕石は通学路にも使われ、業界は今後の風評被害を懸念する。県産肉牛が出荷停止に追い込まれた稲わら問題の教訓は生かせなかったのか-。またもや後手に回る国の対応に、不信感が渦巻いた。
■甘い管理態勢
「復興の手助けのつもりで事業を継続してきた...」。マンションの基礎部分のコンクリートに使われた石を出荷した富岡町の双葉砕石工業の猪狩満社長(50)は16日、郡山市の熱海事業所で記者会見し、ため息を漏らした。
コンクリートの石を採石した浪江町南津島の阿武隈事業所。東京電力福島第一原発から北西に約22キロ離れ、計画的避難区域内にある。周辺の線量は毎時20マイクロシーベルト前後。原発事故後、復旧工事をする建設会社からの出荷要請が相次いだ。停電でプラントが稼働できなかったが、昨年3月23日から在庫の出荷を再開させ、4月22日の避難区域の指定まで事業所で作業を続けてきた。
「出荷した石の危険性は認識していたのか」-。詰め掛けた報道陣からの質問に「当時は放射能に関する知識がなかった。食べ物でないのに、これほどの影響が出るとは思わなかった」とうつむいた。「管理態勢が甘く、結果的にマンションの住民に迷惑を掛けてしまった」と深々と頭を下げた。
双葉砕石工業から砕石を仕入れて、生コンを製造していた本宮市の男性社長(70)は「砕石に放射性物質が付着していたのは知らなかった。国の規制がもっと早ければ仕入れたりはしなかった」と思わぬ事態に困惑を隠せない。二本松市、本宮市の約20社の建設会社に出荷したが、生コンの使用場所については「把握しきれない」という。
県内に支店を持つ大手住宅メーカーも問題のコンクリートを使用した可能性があり、現在確認中だ。工事担当者は「行政が早く対応策を示してくれなければ、何も手が打てない」と苦渋の表情を浮かべた。
■通学路の舗装に
二本松市の建設業者は昨年4月、双葉砕石工業が採掘した石を系列会社経由で購入し、市内の旭小周辺の市道の舗装工事に使用した。
東日本大震災により亀裂が入った道路の復旧工事で、市が発注した。舗装箇所は同校周辺の数カ所で、アスファルトの下に合わせて約20立方メートルを使った。同校が空間放射線量計で舗装面の線量を測定したところ、最大で毎時0.50マイクロシーベルトで数値はそれ以外の地点と変わらなかったという。
現場近くには幼稚園もあり、子どもたちが登下校で頻繁に通る場所。土屋光啓校長は「まさか問題の砕石が学校周辺に使われていたとは思わなかった。今後、市などと連携を取りながら対応を検討したい」
福島大共生システム理工学類教授で同大放射線計測チーム代表代理の難波謙二氏は、出荷先が広がっている状況について「住宅など人が多く入る建物は知らない間に高い線量を浴びてしまう可能性が高い。行政は流通ルートを解明し、危険性の高い建築物から優先順位をつけて対策を取るべき」と指摘する。
■対応模索
「風評被害を防がなければ。国、県にも対策を求めたい」。県内の石材や砕石の業者でつくる日本砕石協会県支部の宗像忠人会長(71)は危機感を募らせている。
支部は県内の生コンや石材などに対する信頼を維持するため、支部加盟約80社で統一的に、砕石場からの出荷時に放射線量測定を実施することを検討している。近く緊急役員会を開き、対応を協議する。
支部加盟の事業所の一部は、取引先からの要望に応じて出荷時の全量測定を既に導入しているという。
支部は16日、県に対して砕石場からの出荷基準を早急に示すよう要望した。宗像会長は「国などの対応が後手に回っている。稲わら問題と一緒だ」と怒りをあらわにした。
【背景】
昨年7月に完成した二本松市若宮のマンション1階の室内で毎時0.9~1.24マイクロシーベルトと、屋外の毎時0.7~1.0マイクロシーベルトよりも高い放射線量が検出された。マンションのコンクリートの基礎部分に、東京電力福島第一原発事故で計画的避難区域となっている浪江町津島の砕石場の石が使われたのが原因とみられる。石は原発事故以前に採掘され、敷地の屋内外に保管されていた。放射性セシウムを含む稲わらが肉牛に餌として与えられていた問題では、政府が原子力災害対策特別措置法に基づき、昨年7月に本県に肉牛の出荷停止を指示。翌8月に解除したが、事実上出荷できない状態が続いた。
■要望したのに...
「想定していなかったわけではない。国に要望していたのに...」。二本松市のマンション室内で高線量が測定されたことに県土木部の職員は唇をかんだ。
県は昨年5月、公共工事を進める際に使う建設資材の放射線量に関する基準がないことから政府の原子力災害現地対策本部を通じて国に早急に基準を提示するよう求めた。しかし、いまだ基準は示されていない。
原子力災害現地対策本部は「県からの要望を受けたかどうか確認している」としており、その有無さえも現段階で把握していない。県の要望に対する国の姿勢が問われそうだ。
昨年7月には、県内の肉牛から暫定基準値を上回る放射性セシウムが検出され、出荷停止に追い込まれた。餌として与えていた稲わらが原因で、屋外での管理の在り方が問題となった。
経産省によると、石は一般的に山などから取り出して砕き、水洗いしてふるいにかけるなどしてからコンクリートなどの材料に使用するという。担当者は「放射線量が低くなることはあっても高くなることは考えていなかった」と明かす。
■冷 水
「冷水を浴びせられた気持ち」。県生活環境部の担当者は天を仰ぐ。
災害で発生したがれきの再利用について、環境省が1キロ当たり3000ベクレル以下という基準を示したのは昨年12月27日。復興に向けて今年から本格的にがれきの処理を進めようとしていた矢先に今回の問題が起きた。
県が再利用を進めようとするのは計画的避難区域の外側などにあるがれきだが、砕石と同様、屋外に置かれているという共通点から業者ががれきの再利用に不安を抱く可能性は否定できない。
担当者は「復興に向けて一刻も早く処理しなければならないのに...」と表情を曇らせた。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)