東日本大震災アーカイブ

明日への提言 福島大行政政策学類教授 今井照氏 戻らない人も支援を

 自治体政策が専門の福島大行政政策学類の今井照教授に、古里への帰還をめぐる避難者の現状や避難区域見直しの在り方などについて聞いた。

 −避難者の現状をどのようにみているか。

 「原発災害は、自分の住んでいた地域に住めなくなることが自然災害との大きな違いだ。1年近く経過しても、いつまで避難生活を続けなければならないか分からず、避難者には閉塞(へいそく)感が漂い始めている。震災から1年を前に原発事故避難者を対象に実施した調査では、4人に1人が『戻れないと思う』と回答した。震災後六カ月の時点の調査と比較すると倍増している。避難者はこのまま生活を続けていくか、次のステップに進むかについて考え始めているのではないか」
 −戻りたくないと考える人が増えている背景は。

 「戻りたくないと考えているのは子育て世代に多い。いつか戻りたいと考えていた子育て世代が、除染の限界に気付き始めている。調査でも、除染の効果があまりないと考えている人は8割近くに上った。原発に近いほど帰宅の厳しさを感じ始めている。仕事の影響もある。農家が多い高齢者と比べ、30、40代の子育て世代は会社員が中心だ。会社が営業できないとなると、地域との関係が切れてしまう。戻らないと決意し、次の生き方を考える人も増える」
 −政府は避難区域を「避難指示解除準備」「居住制限」「帰還困難」の三区域に見直す方針を示している。

 「基本的には自治体や地域といった大きな単位で行うべきだ。合理性を追い求めると細分化しなければならないが、細分化はトラブルの増加にもつながる。区域分けは賠償などの問題も密接に絡んでくる。帰還困難に設定された人たちの思いは察するに余りある。そうした避難者の心や生活のケアをどのようにして進めていくかを考える必要もある」
 −避難区域の見直しに当たり、住民の意思をどのようにくみ取るべきか。

 「トラブルの数を減らしていくためにも、住民の意思を尊重する選択肢も残しておくことが大切になる。基本的には住民の心情を尊重したいが、同じ地域でも帰還に関して異なる心情を持っている人がいる。戻りたい、戻りたくないという二つの感情をひとくくりに指定する難しさもある」
 −戻れる地域と戻れない地域に分断されてしまう市町村も少なくない。

 「戻った人へのケアが大切なのは言うまでもないが、役場機能が元の場所に戻った場合、戻らない人の避難先の生活を支援する体制を整える必要がある。その場合は、避難先の自治体といかに協力できるかがポイントだ。避難者のケアを地元と避難先の行政とで一緒に考えていかなければならないだろう。住民にとって重い問題なので、市町村は国と住民との間に入り、しっかりとコミュニケーションを取る必要がある。県が調整し、国が制度や財政面で支援していくことが大切になる」
 −避難生活が長期化する中、今後、どのようなが問題が予想されるか。

 「住民税を支払っていない避難者と、住民税を払っている住民との間にあつれきが生じる可能性がある。住民票を移す選択を求められるケースが起きる。多くの避難者は、実態は避難先に帰属し、気持ちは避難元に帰属している。二者択一の問題ではないはずだが、今の日本の制度はどちらか一つを選択するよう求めてくる。避難者の権利を守るしっかりとした仕組みを構築しないと、時間がたつにつれて戻らないという人が増え、避難区域が空洞化してしまうことにもなりかねない。住所が二つあってもいいという考え方もあるのではないか」

 いまい・あきら 神奈川県平塚市出身。東京大文学部社会学専修課程修了。都立学校事務、東京都大田区職員を経て平成11年から福島大行政社会学部(現行政政策学類)教授。専門は自治体政策。58歳。

カテゴリー:震災から1年