東日本大震災アーカイブ

(36)命の重さ 慰謝料 遺族の嘆き 「責任を認めて」 弔慰金は葬儀費に

キヨエさんの死亡診断書。直接死因の欄には「老衰」とだけ記入されていた

 南相馬市小高区の農業遠藤充人(みつひと)さん(75)が東京電力福島第一原発事故に伴い、市北部の鹿島区にある西町公園仮設住宅に移り住んで2年が過ぎた。自宅は東日本大震災の津波で被災し、原発事故によって避難指示解除準備区域になった。「戻るつもりはない」。事故から半年後の避難中に命を落とした母キヨエさん=当時(93)=の遺影に手を合わせ、つぶやいた。
 震災関連死に認定され、市から災害弔慰金250万円を受け取った。度重なる長距離避難で体調を悪化させた母の死に対し支払われた東電からの賠償はいまだにない。「避難が死期を早めたのは明らか。母の無念を晴らすためにも原発事故が原因だと認めてほしい」
 今年2月、遠藤さんは政府の原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てた。東電に対し死亡慰謝料など計約3300万円の損害賠償を支払うよう求めた。死因と原発事故との因果関係-。立証できるかが賠償の成否を左右する。
 キヨエさんは震災当時、同市小高区の特別養護老人ホームに入所していた。施設は自宅から車で5分もかからない場所にあり、頻繁に様子を見に行くことができた。認知症はあったものの、健康だった。
 入所者は震災当日、近くの多目的集会所に避難した。翌日に同市鹿島区の特別養護老人ホームに移った。全員分のベッドを置く場所がなく、冷たいコンクリートの通路に毛布を敷いて体を休める日が1週間ほど続いた。
 その後、入所者はマイクロバスで約10時間ほどかけて横浜市の介護施設に避難した。さらに、事故から13日後の3月24日には、再び十数時間かけ山形市の託老所に移動した。
 キヨエさんは到着する直前に肺炎を患い、山形市内の病院に入院した。病床の母を見舞った遠藤さんに医師は告げた。「治る見込みがない。死をただ待つしかない」。診断書には「原発事故に伴い、長距離の避難を強いられたため身体に大きな負担がかかり、肺炎を発症した」とあった。
 入院できる期間が限られているため、キヨエさんは5月下旬に入院先を山形県西川町の病院に変えた。その後も病状は改善せず、自宅から約110キロ離れた見知らぬ地で息を引き取った。
 遠藤さんは母の死後間もなく南相馬市へ災害弔慰金を申請した。市から250万円が支給された。キヨエさんの葬儀に220万円が必要だった。「葬式費用として弔慰金は支給されるんだ」。漠然と考えていた。
 キヨエさんの死亡診断書には「老衰」と死因が記入された。遠藤さんは当時、異を唱えなかった。慰謝料はいずれ支払われると思い込んでいた。だが、ADRの申立人となった今、死因が老衰である限り、東電が原発事故との因果関係を否定する可能性もあると感じている。それでも担当弁護士は、キヨエさんの死が人災とされる事故に起因しているとし、東電の責任を問えると助言してくれた。
 「なぜ老衰の診断書に納得してしまったのか...」。因果関係の立証という壁を前に、遠藤さんは切ない思いでADRの行方を見守る。
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 原発事故から2年5カ月余を経ても、避難生活の終わりは見えない。古里を追われ、命を落とす「原発事故関連死」が増え続けている。無念の死に対する損害賠償を東電に求める動きも出てきた。原発事故と死の因果関係の立証や賠償額、消滅時効などの課題が浮かび上がる。
 
■弔慰金制度の限界指摘 法律家 因果関係見極め難しく 
 原発事故関連死をめぐっては、市町村が震災関連死と認定した場合、法に基づき遺族に弔慰金を支払う制度がある。金額は「世帯の生計維持者の死亡」は500万円、「その他」は250万円で、被災した遺族の生活再建にも重要な役割を果たしている。ただ、原発事故の発生から時間が過ぎるとともに、死因と原発事故との因果関係の見極めは困難さを増している。法律の専門家からは、支払われる金額の妥当性などの観点から、原発事故に特化した制度づくりを求める声が出ている。
 一方、遺族は死亡慰謝料などを東京電力に損害賠償として請求することができる。民事訴訟や政府の原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てる手段があるが、弔慰金制度と同様、因果関係などの課題が生じている。

カテゴリー:原発事故関連死