東日本大震災アーカイブ

(4)小高には希望がある

フリーペーパーの発行に向け準備を進める森山(左)

■南相馬市ITシステムエンジニア 森山貴士さん 29 (上)

 「『戻ってきてください』なんて言いません」-。
 東京電力福島第一原発事故による避難指示解除の目標を今年4月としている南相馬市小高区。大半が古里を離れて暮らす全3280世帯に新年早々、刺激的な言葉が躍るフリーペーパー(無料情報誌)が配られる。市内に移住したITシステムエンジニア森山貴士(29)が中心となり、県地域創生総合支援事業の補助を受けて発行する。
 印刷作業は最終段階を迎えている。刷り上がりを見詰め、仕掛け人は「小高には希望がある。それを伝えたかった」と笑顔を見せた。本業の枠を超え、被災地の再生に挑む。

 森山は大阪府出身。京都市の立命館大を卒業後、インターネットのアプリ開発などを手掛ける東京都内の企業に就職した。
 平成23年の東日本大震災発生後、普段と変わらぬ職場の風景に違和感を抱いた。「非常時だが、仕事をして経済を回すのが第一だ」。上司の言葉に、素直にうなずけない自分がいた。
 3年後、新たなステージで自分の力を試そうと退社した。宮城県内で開かれたスマートフォンアプリ製作の腕を競う「ハッカソン」大会に参加する。打ち上げの席で、世界的なIT企業のマネジャーを務めた人物に出会う。「南相馬で復興を支えるエンジニアを求めている」。ITに詳しい市内の若者を紹介された。
 東京のオフィスでぼんやりと想像した被災地。福島に向かえ。自分に一体何ができるか心もとないが、背中を押された気がした。
 南相馬市に移り住んだのは26年の夏。アパートが見つからない。復旧・復興事業が本格化し、作業員が市内に流れ込んでいた。知人宅やそのオフィスに寝泊まりした。高校でのIT講師を引き受け、お年寄り向けパソコン教室を開いて何とか生活費を稼いだ。

 地元の小高区に飲食店や仮設商店を開いた和田智行(38)=株式会社「小高ワーカーズベース」代表=と出会う。
 避難指示解除後のまちづくりを話し合った。市の調査によれば、「自宅に戻る」としたのは区民約1万2000人の1割弱の約1000人で、大半が高齢者だ。避難指示が解けた他の自治体でも、住民帰還はなかなか進まないと聞く。「『戻ってください』とお願いするのでなく、発想の転換が必要ではないのか」。議論が続いた。(文中敬称略)

カテゴリー:明日に挑む-芽吹く福島の力