東日本大震災

「連載・今を生きる」アーカイブ

  • Check

今を生きる 祖母の姿花に重ね

笑顔で窓口業務に励む堀川さん

 「いらっしゃいませ」。南相馬市原町区の大東銀行原町支店に明るい声が響く。「これ、お願いね」。来店者も自然と笑顔になる。
 南相馬市小高区の堀川千恵子さん(23)が窓口の仕事に復帰して3カ月近くが過ぎた。「おばあちゃん、これからも頑張るからね」。心にとどめる一輪のスイセンに誓った。
   ◇    ◇
 「千恵子は明るい色の方がいいんじゃない」。今年初め、祖母の滋子さん(75)は色とりどりの婚礼衣装をあてがい、声を弾ませた。母寿子さん(46)が口を挟めないほどだった。
 幼いころは祖母に連れられ、近くの海岸によく散歩に出掛けた。わがままを言うと「駄目なものは駄目」と、たしなめられた。そんな時でも、自分を見つめる目はいつも優しかった。
 宇都宮市の飲食店で働く同郷の27歳の男性と1月に結納を済ませ、今月18日に結婚式を挙げる予定だった。「結婚したら、早くひ孫を見せてね」。祖母はその日を待ちわびていた。
 震災前は祖母、両親と4人で暮らしていた。原町支店で仕事をしていた時、強い揺れに襲われた。その日も祖母は1人で留守番をしていた。津波警報が出たことを知り、家に電話した。何度かけてもつながらず、胸騒ぎがしたが、強い余震が続き、駆け付けられなかった。
 自宅は津波で流され、祖母の行方は分からなくなった。5月上旬、変わり果てた祖母と対面した。
 東京電力福島第一原発事故が起き、家族と福島市や仙台市の親類宅を転々とした。みんな温かく迎えてくれたが、将来への不安はとめどなく押し寄せた。「震災前の生活を取り戻したい」と4月初旬、南相馬市原町区にアパートを借りて仕事に復帰した。
 挙式は延期したままだ。婚約者は「前を向かなきゃ駄目だよ」と毎日、電話で励ましてくれる。自分の誕生日の7月2日に籍を入れ、新しい生活を始めることを決めた。夢は温かい家庭をつくり、新しい命を育むことだ。
   ◇    ◇
 小高区が警戒区域になる前日、思い出の品を求めて古里に向かった。全てを流された自宅跡にスイセンが一輪咲いていた。自分がこの地を訪れるのを待っていたかのようだった。大切に育てていた祖母の姿が重なり、涙があふれた。
 「おばあちゃん、ひ孫を連れて必ず会いに行くからね。その日はいつかきっと来るよね」。再びあの場所に立つ日まで、スイセンは毎年咲き続けると信じている。

カテゴリー:連載・今を生きる

「連載・今を生きる」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧