東日本大震災アーカイブ

【4・11巨大余震から半年】いわき市 田畑、建物爪痕深く 復旧見通し立たず

 東日本大震災の発生から11日で7カ月を迎えた。いわき市では、震災から1カ月後の4月11日に発生した震度6弱の直下型余震による深い爪痕がいまだ残る。市内田人町や遠野町では農地に亀裂が入り、作付けができなくなった田んぼは雑草に覆われている。学校をはじめ多くの建物が損壊したまま残され、住宅地では温泉の流出が続く。巨大余震が襲った被災地の今を取材した。

▼水田に走る亀裂

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田んぼで亀裂の状況を確認する小松さん=4日、いわき市田人町
 「来春の田植えに間に合うのだろうか」。田人町黒田の農業小松一利さん(67)は亀裂が入った田んぼを指さし、表情を硬くした。

 強い縦揺れが襲った余震で、自宅前の田んぼから田人中に向かって一直線に亀裂が入った。断層だ。小松さんら7人が所有する田の連なりに段差が生じ、自宅側から眺めると、向こう側が陥没している。

 1枚の田の中に高低差がついたため、水が張れない。コシヒカリを栽培していたが、今年は作付けを見送った。

 市は国の災害復旧事業を活用して修復を検討しており、今月6日までに査定を終えた。基本的に高い方から土を移動させるなどの手法で高低差をなくし、用水路、排水路の高さを調整することになる。だが、稲作を再開するには水を引き込む前に土を乾かすなど幾つかの作業が必要になり、来春の田植えまで間に合うか見通せない。

 遠野町滝の農業委員油座勝三さん(66)も、自宅近くにある三段の田んぼが同様の被害を受けた。最上段は沢の水が入らなくなった。中段は一部が陥没し、亀裂も生じた。水を引き入れても地中に抜けていくため、今年は一番下の段だけで作付けした。

 周囲には土地が傾き水利が悪くなった田んぼもある。油座さんは「山にも長い亀裂が入っている。大きな落石が木に引っ掛かったままだ」と被害の大きさに不安な日々を送る。

▼修復費用は多額

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施設が倒壊したままとなっている建徳寺=7日、いわき市常磐藤原町
 至る所に「立ち入り禁止」のテープが張られている田人中。断層の真上にある体育館が傾いて使用できなくなり、プールも破損したままだ。

 体育の授業は1・4キロ離れた田人ふれあい館で行っており、移動時間を短縮するため教職員が交代で自家用車を出し、生徒を送り迎えしている。体育館は取り壊すことになったが、その後の計画は白紙という。

 遠野町は「3・11」の本震で断水を免れた数少ない地区だったが、4月の余震で水道水が出なくなった。井戸水が使えなくなった家もある。通り沿いには屋根にブルーシートを張った家が目に付く。市遠野支所によると、地区内全1800世帯のほとんどが3月の震災も含めて建物の罹災(りさい)証明を申請した。

 建物の被害は平野部でも深刻だ。常磐藤原町の瑞光山建徳寺では、断層のずれで敷地内に1メートル近くの段差が生じた。本堂は全壊し、山門やお堂などの施設は倒壊した。参道の階段は一部が崩れたまま。現在も断層が動いているため、修復作業に入れない。法事などは既存の建物内に設けた仮本堂で行っている。

 本堂や山門は敷地内で被害を受けていない場所に移築する計画を練っている。参道のルートは一部変更する予定だ。住職の佐竹浩久さん(49)は「修復費用は多額になる。被災している檀家(だんか)もいるし、簡単に寄進をお願いできない」と苦しい胸の内を明かした。

市民生活に今も影 温泉流出止まず、深刻な地盤沈下

▼漂う硫黄の臭い

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温泉の流出が止まらないアパート=6日、いわき市内郷高坂町
 4月11日以降、市内の住宅街などで噴き出した温泉は現在も流出を続けている。

 内郷高坂町のアパートの敷地内では配水管など数カ所から温泉が勢いよく流れ出している。周囲には硫黄の臭いも漂う。9月末にはお湯が側溝に落ちる騒音を理由に1世帯が退去した。

 初めは2カ所から温泉が出てきた。その場所は変動し、1カ所が止まると新しい所から湧き出てくる。湯量も次第に増え、県外の研究機関が9月20日に行った調査では毎秒約4・5リットルと判明した。温度は約27度であまり変わらない。

 周囲の地盤が沈下し、敷地内は一時、足が埋まるぐらいにまで地面が軟らかくなった。20センチほど地盤が下がったため、市は5月末に砂利を敷いた。

 当初、2、3カ月程度で止まると予想されていたが、最近の調査でこのまま流れ続ける可能性も指摘されている。アパートを所有する我妻千恵さん(50)は「自分だけの力では解決できない。このままでは人が住めなくなってしまう」と嘆く。

 一方、泉地区では炭鉱の立て坑跡地から温泉があふれ出した。周囲に広がらず川に流れるような措置が施され、管理会社によると一時期より湯量は減少したという。

▼余震の恐怖

 「地底で爆弾が破裂したような震動、下から大砲で撃たれたような揺れ...」。遠野や田人地区の住民は4月11日以降、頻発している余震をこう表現する。

 遠野町滝の内間保枝さん(72)は「あれから1カ月近くは5分から10分間隔で揺れを感じた。船酔いしそうだった」と振り返る。ほとんどが数秒の縦揺れで、パソコンに文章を入力中、震動で画面が消えてしまったこともあるという。

 余震の多さは思わぬところに影響を及ぼした。演劇鑑賞団体「いわきおやこ劇場」の会員は、東日本大震災前は408人だったが、その直後166人に激減した。現在は251人に増えたが、運営費は全て会費で賄っているため活動が根底から見直しを迫られている。これまで年間8団体の劇団を招いていたが、来年度は3団体しか呼べない。

 会員が減った大きな要因は東京電力福島第一原発事故の影響で市外への避難者が続出したため。しかし、いわきに戻ってきても再入会しない家族が相当数いる。余震が怖くて観劇で大人数が箱詰めになる状況を回避する傾向があるという。震災の影響で使えるホールが限定されている中、事務局側はすぐに外に出られる会場を探すのに苦慮している。

※4・11巨大余震

 4月11日午後5時16分ごろ、いわき市の西南西30キロ付近を震源とする震度6弱の地震が発生した。同市田人町などで土砂崩れがあり、民家や車が巻き込まれて4人が死亡した。県道いわき石川線が長期間通行止めになったほか、市道の損壊も相次いだ。96%まで復旧していた水道は再び断水、平の中心市街地をはじめ各地で停電した。再開したばかりの公立小中学校も4日間の休校となった。専門家らは市南部の井戸沢断層など複数の断層が動いた可能性を指摘している。翌12日午後2時7分ごろにも震度6弱の地震があった。