東日本大震災アーカイブ

今を生きる 師走の会津で(1)茶飲み話が心の糧 仮設の冬にぬくもり

仮設住宅で友人と談笑する明さん(左)と伴子さん(中央)。何げない会話が心の支えになっている

■大熊の星野明さん
 「とうとう冬が来ちゃったなあ」。会津若松市桧町の東部公園仮設住宅。大熊町の無職星野明さん(76)は断熱フィルムが張られた窓の外に目をやった。11日の雪で市内は白く染まった。「こんなに積もるんだね」。妻の伴子(ともこ)さん(75)が驚く。大熊で雪が降るのは年に数回。たとえ積もっても昼には消えてしまう。鉛色の空に気持ちが沈みかけた時、軒先から声がした。「元気にしてたかい」
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 北塩原村のホテルから仮設住宅に移って5カ月になる。慣れない土地で不安は尽きない。尋ねて来る同郷の友人たちが何よりの心の支えだ。仮設住宅や民間の借り上げ住宅から毎日数人が集まり、茶飲み話が始まる。話題は病気や孫のことが多い。国や東京電力の悪口も出る。「また、長話しちゃったな」。そう言っては帰って行く。
 明さんは笑う。「何もすることがないから、話をしていると落ち着くんだよ」。議論をしても現状は何も変わらないと思う。古里に戻るすべが見つかるわけでもない。同じ境遇の人たちとの会話だけが、心の隙間を埋めてくれる気がする。
 昨冬まで暖房器具は電気カーペットとストーブだけだった。今年はこたつで暖をとる。その上にお茶菓子を並べておく。友人たちは軒先からふらっと現れる。それが仮設の"ルール"だ。「勝手に来て、勝手に話し、お茶を飲んで帰って行く。それが楽しい」
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 毎年、正月は自宅で迎えていた。今年は雪の会津、それも仮設住宅で年を越す。宮城県で生活する息子が「年末には帰る」と知らせてきた。「帰るっていっても、大熊には戻れないのに...」。2人は苦笑いした。
 「一家だんらんの時間を自宅で過ごしたい。いつかきっと。それまで、楽しく暮らしていないと」。伴子さんは窓に付いた結露を丁寧に拭いた。

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 「3・11」から9カ月がたった。浜通りから避難している人たちは仮設住宅や民間の借り上げ住宅で年の瀬を迎える。不安、希望、葛藤...。さまざまな思いを抱いて年を越す人たちを、本格的な冬が訪れた会津の避難先に訪ねた。

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