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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第7部 ADR・訴訟 地域事情(44) 手探りの実情説明 福島渡利 廃棄物の苦痛訴え

シートに包まれ、駐車場に現場保管される除染廃棄物。中央奥は県庁

 福島市渡利地区の住民3107人が昨年7月、原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)は極めて異例な内容だった。
 東京電力福島第一原発事故に伴う除染廃棄物を庭先に長期にわたり保管しているなどの精神的苦痛に対し、平成23年の3月11日から8月まで1人月20万円、9月から和解成立の日まで1人月10万円の賠償を東電に求めている。同じ地区内に特定避難勧奨地点があった伊達市保原町富成地区住民の場合と異なり、渡利地区は地区内だけでなく福島市内のどこにも避難区域や勧奨地点がない。しかし、原発事故後は放射線量が局所的に高い「ホットスポット」を抱え、子育て世代を中心に多くの世帯が市内外に避難した。にもかかわらず避難の対象にならなかったことへの疑問や不満が地区独自の賠償を求めた背景にある。

 申し立てに加わった無職有我慶子さん(88)は平成25年5月に宅地を除染した。取り除いた表土や庭木は庭の構造上、地中に埋められず、地上に置いたままだ。シートに包まれた除染廃棄物が寝室の窓越しに見える。そのたびに気持ちがめいる。「この窓はもう2年以上も開けていない。原発事故から5年近くがたつのに放射線の不安は尽きない」
 ADRは住民有志でつくる渡利の復興をめざす会が主導している。和解案には統一的な基準がなく、弁護士らで構成する仲介委員の裁量に委ねられている。「除染廃棄物の保管による苦痛をセンターが審理するのは初めてではないか。どうすれば仲介委員に実情を分かってもらえるのか」。めざす会の会長を務める自営業阿部隆明さん(72)は硬い表情で話す。今月下旬のADRの進行協議で、センター側に現地視察を提案する。「地域内をくまなく見てもらうしかない。自分たちにできるのは丁寧な説明を繰り返すだけ」と言い切るが、先は見えない。

 センターの担当者は渡利地区への対応について、富成地区と同様に「それぞれの事情を考慮して審理するが、個別の問題には回答できない」としている。
 弁護団の大森秀昭弁護士=東京=は「渡利地区の審理は初の事例を扱うため、詳細な情報提供が必要だ。その分、時間がかかるだろう」とみる。
 渡利地区の3000人を超える住民の個別事情をくみ取るのに一体、どれほどの期間を要するのか。早期解決が目標だったはずのADRは多岐に及ぶ申し立てを本当にこなしきれるのか。長期化しかねない事態が住民をさらに苦しめる。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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