古里を離れた地で奏でられる盆踊りのおはやしは懐かしさや切なさを誘う。7日、二本松市のあだたら商工会本所の一室で浪江町民十数人が太鼓や笛、歌を響かせた。東日本大震災から5カ月目に当たる11日夜、市内の中心街で開かれる浪江町新町商店会の盆踊りに向けて、有志がけいこに励んだ。
浪江町は警戒区域と計画的避難区域に指定され、町民約2万人は45都道府県に散っている。町は二本松市の県男女共生センターに役場機能を置く。二本松、福島の両市に約2000戸の仮設住宅が建設され、両市内とその近郊に町民の半数近い約9000人が集まる見込みだ。盆踊りは16日に福島市飯坂町平野の仮設住宅でも開く。
新町商店会副会長の原田雄一さん(62)は「町民の踊る姿を見たら、気持ちが高ぶって、きちんと演奏できるかどうか...」と少し心配しながらも開催できる喜びをかみしめる。
■奪われた情景
平成15年に有志が「新町芸能保存会」を結成し、笛や太鼓をそろえた。長老が保存していた伝統の歌詞を譲り受け、夏休みになると地元の子どもたちと練習した。浴衣姿の家族連れがうちわをあおぎながら集まり、やぐらを囲んで踊りの輪を広げる。遠くまで雑踏のにぎわいが広がった。
原発事故は、どこにでもあった夏の情景を奪い去った。6月中旬、原田さんは人けのない新町通りを商店会のメンバーと車で走った。町の許可を得た公益団体の一時立ち入りで、盆踊りで使う笛や太鼓を持ち出した。
昨年まで会場となっていた新町ふれあい広場は、原田さんが営んでいた時計店兼自宅の隣にある。震災前までは手入れされていた広場には雑草が生い茂り、例えようのない寂しさで胸が締め付けられた。「絶対に戻ってくる」と誓った。
■特別なフレーズ
おはやしの歌詞にはアユがすむ清らかな川、地域に息づく暮らしの知恵がちりばめられている。今年は、その一部に特別なフレーズが加わる。
《帰るに帰れぬ我が古里》
帰郷がかなわない怒り、親しい人と離れ離れのつらさを歌詞に込め、地域の絆を盆踊りで確かめ合う。
毎年11月に新町通りなどで開かれてきた露店市「10日市」を二本松市で復活させる動きが出始めた。原発事故の収束や帰還の見通しは立たないが、原田さんら商店会の有志は町のにぎわいを取り戻せる日を心に描き続ける。
(カテゴリー:連載・原発大難)