■捨てるだけ...
県内の狩猟が15日に解禁されるが、東京電力福島第一原発事故の影響で山林の放射線量が高い地域を中心に猟を控える動きが出ている。今年度の県猟友会員は大幅に減る見込みで、猟友会を母体にした有害鳥獣捕獲隊の結成にも支障を及ぼしかねない状況だ。イノシシなどに穀物を荒らされてきた農家からは被害の拡大を心配する声も上がる。
「含まれる放射性物質の量が分からない獲物を、家族に食べさせるわけにはいかない」。本宮市の大工荒川照男さん(54)は手入れを怠ったことがない猟銃を手にため息をつく。県内のイノシシから暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されたため、今年度の狩猟登録を見合わせた。
狩猟を始めたのは11年前。シーズンを迎えると月に3、4回、仲間と大玉村などの山に入り、イノシシやキジ、ヤマドリを捕獲してきた。「休み続ければ腕も鈍るが、捕獲しても捨てるだけになる。山の放射線量が下がれば再開したいが」と話す。
山林に入ることで浴びる放射線量も心配の種だ。県猟友会の佐藤仁志事務局長(66)は「山林内の放射線量はほとんど計測されていない。放射線量が不安で、山に入ることを控える会員も多い」と分析する。
■一気に1000人以上
県猟友会の会員数は近年、減り続けている。同会によると、原発事故の影響で、会員数は昨年度の3542人から一気に1000人以上減り、約2500人になる見込みだ。
平成21年度の県内の狩猟量はイノシシ3219頭、ツキノワグマ103頭、キジ6593羽などだった。しかし、今年度はイノシシを中心に大幅な減少が予想されている。
狩猟量が減ると、イノシシなどの有害鳥獣が増え、農作物被害の増加が懸念される。福島市大波の農業佐藤ヨツさん(77)は今年初めて、長イモとジャガイモの畑をイノシシに荒らされた。放射性物質の影響で出荷制限になったホウレンソウ100キロを廃棄した直後だった。大波地区は現在も比較的放射線量が高い状態が続いており、「放射能とイノシシに悩まされては、野菜を作り続けることも難しくなる」と頭を抱える。
■技術継承に懸念
農業被害防止には有害鳥獣の捕獲が不可欠だが、猟友会員の減少が暗い影を落とす。県猟友会福島支部は支部員が約100人減の約160人になり、猟友会員を中心につくる市有害鳥獣捕獲隊の隊員集めもままならない状況だ。
佐久間貞二隊長(70)は「今のところ、市の要請に応えて何とか結成しているが、来年以降はどうなるか分からない。危険を察知したり、足跡を判別するなど狩猟技術の継承もできなくなりかねない」と心配する。
伊達市は今年度、イノシシによる農作物被害を抑制しようとイノシシの肉を特産品化して販売する「イノシシ公社」の設立を目指していたが当面、イノシシの食肉化を見送る方針だ。
県は9月末、国に増加が見込まれる野生動物の捕獲などを求める要望書を提出した。要望に対し環境省野生生物課は「農林水産省の補助金を生かし支援を検討する」としているが、「国が捕獲業務を主導することは難しい」との認識を示す。
【背景】
県は10月から各地でイノシシ、クマ、ヤマドリなど野生動物の放射性物質検査を実施している。狩猟解禁後も2週間に1回、イノシシなどを捕獲し調査を続ける。相双地区に加え、国の暫定基準値を超える値が検出された県北、県中、県南、いわき地区のイノシシ肉の自家消費を控えるよう呼び掛けている。平成21年度の鳥獣の農作物被害額は1億2726万円で、うち獣類が9756万円、鳥類が2970万円。イノシシは獣類で最も多い5660万円だった。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)