放射性物質の除染を推進する放射性物質汚染対処特別措置法が1日に全面施行となったが、先月までに結果をとりまとめるはずだった警戒区域と計画的避難区域の除染効果を検証する政府の除染モデル実証事業が難航している。住民から作業の同意取り付けに手間取っていることや現場に向かう道路の復旧が遅れているためだ。本格除染の遅れへの懸念や、除染が進まないことで、春に一部住民の帰還が可能になるとの政府の見通しにも疑問の声が出始めている。
■見通しに甘さ
政府のモデル実証事業は、県や市町村のモデル事業とは別に、政府が直接除染する避難区域などの12市町村を対象としている。区域内の宅地、公共施設、森林、農地などを面的に捉え、さまざまな手法の放射線量の低減率を調べるほか、廃棄物の量や適切な保管方法を調査する。
政府から業務を委託されている日本原子力研究開発機構(JAEA)福島技術本部の関係者は、住民の理解を得るのに時間がかかっていることを遅れの要因の1つに挙げる。
南相馬市は警戒区域内の小高区で事業を計画していたが、対象地域の住民約40人のうち、仮置き場の問題などで、一部住民を説得するのに時間がかかった。このため、計画が大幅に遅れ、昨年末になってようやく除染に入った。
1軒ごとに住民同意を得ることが予想以上に手間取っており、JAEA関係者は「計画の見通しが甘かった部分もある」と認める。
政府は全体計画で昨年11月中に除染作業に入り、12月にモデル除染の結果をとりまとめる予定だった。しかし、ほとんどの自治体で計画が遅れているほか、広野、楢葉、富岡、双葉4町には除染作業に入れていない地域がある。
■インフラ問題
震災による道路や水道の破損が、除染作業を阻んでいるケースもある。
大熊町では昨年11月末、公共施設の除染に乗り出した。しかし、幹線道路に大きな陥没があり、作業で使う重機を載せたトラックが現場に到着することができなかった。迂回(うかい)が必要となり作業が遅れることになった。
避難区域の市町村では、水道管の破損状況も十分に把握されていない。水が出なければ、民家の高圧洗浄を行うことはできなくなってしまう。
内閣府原子力被災者生活支援チームの担当者は「インフラ復旧を進めないと除染が遅れる。膨大な予算と時間が必要で頭の痛い問題だ」と語る。
政府は避難区域を見直し、放射線量の低い「避難指示解除準備区域」の一部は4月にも住民帰還を認める方針を示した。しかし、県幹部は「除染が遅れれば、春の帰還に間に合わない。政府の目標は絵に描いた餅になる」と突き放した。
除染モデル実証事業が進まないことで、対象市町村に対する政府の除染計画作りに影響が出始めている。また、事業は高線量地域の本格的な除染作業に向け、効果の上がる方法を見つけ出すのがそもそもの狙い。だが、遅滞していることで「有効な除染技術の確立はできないのでは」との懸念も広がっている。
■遅れ必至
政府は除染モデル実証事業の結果を基に、政府が直接除染する警戒区域と計画的避難区域内の自治体の除染実施計画を策定し、本格的な除染を開始する。
地域に合った除染の方法や目標などを計画に盛り込む考えだ。
当初予定では年明けにも計画を策定する予定だったが、モデル事業自体が遅れているため、計画の策定も遅れるのが必至の状態だ。
政府の福島除染推進チームは「モデル事業が遅れているのは事実。少しでも事業が進むよう先にできることから進めるしかない」と語る。
警戒区域の町関係者は「住民は古里への帰還を心待ちにしている。期待を裏切らないでほしい」と避難住民1人1人の気持ちを代弁する。
■参加拒否も
昨年12月に行った大熊町内の除染。2メートル四方の大熊町役場の床面を水で10分間洗浄したところ、表面の放射線量は毎時16マイクロシーベルトから8マイクロシーベルトに下がった。しかし、職員は「風や雨などで放射性物質が運ばれてきたら、再び数値が戻ってしまう」と危機感を募らせる。周辺には、場所によって数10マイクロシーベルトに達する区域が点在していることが分かっている。
政府内からも線量の高い「ホットスポット」から除染を始める必要があるとの指摘もあるが、全域の詳細なモニタリング調査にまで手が回っていないのが実情だ。
双葉町は「有効な除染技術が確立されていない現状で、国の膨大な経費を使うことに同意できない」として、モデル事業そのものへの参加を拒否している。
さらに、モデル事業の対象12市町村の大半は山林だ。山林除染モデルは遅々として進展していない。3月の住民帰還を目指す川内村は広大な面積の山林の除染が進まない。遠藤雄幸村長は「村に戻るためには山林の除染が最大の課題」と挙げる。関係者は「放射性物質の問題を根本から解決するため、山林除染の有効な手法を確立する必要がある」と政府に訴える。
【背景】
1日、全面施行された放射性物質汚染対処特別措置法により、政府は警戒区域と計画的避難区域を汚染特別地域に、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト(毎時0.23マイクロシーベルト)以上の地域を抱える40市町村を汚染状況重点調査地域に指定。特別地域は国が直接除染し、重点調査地域は国の財政支援を受けた市町村が除染実施計画を策定した上で作業に入る。国は県内での本格的な除染に先立ち、避難区域の12市町村でモデル実証事業を計画。当初、11月中に除染を始める予定だったが、大幅にずれ込んでいる。国の平成24年度復興特別会計予算案には除染費3721億円が計上された。このうち国直轄の除染費として2677億円、市町村への支援費に1042億円が盛り込まれている。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)