■いわきの「大元昆布海産」社長 新妻正啓さん
いわき市久之浜町で津波の被害に遭った海藻加工業「大元(だいげん)昆布海産」が、いわき四倉中核工業団地の仮設施設で操業を再開した。「もう1度久之浜に戻る。そして、地域の人たちと歩みたい」。真新しい施設で社長の新妻正啓さん(58)は決意する。
北海道産の昆布を食べやすく細切りにした「きざみ昆布」を主力製品に、全国に商品を販売していた。東日本大震災の津波で社屋は全壊。自身も波にさらわれかけ、工場の中にあった昆布の乾燥機につかまって九死に一生を得た。従業員約30人は無事だったものの、操業休止に伴って解雇せざるを得なかった。
設備も従業員も失ったが、「再開しようという気持ちは1度も揺らいだことはなかった」という。中小企業基盤整備機構(中小機構)の被災者向け仮設施設貸与事業を利用して事業所を確保した。散り散りになっていた従業員に声を掛けると、「また一緒にやりましょう」と言ってくれた。何よりもうれしかった。
操業再開にこぎ着け、これからが正念場だと感じている。生産量は1日約2500袋と震災前の4分の1程度にとどまる。東京電力福島第一原発事故による放射性物質の影響を考慮し、乾燥作業などは屋内で行うことにしたが、風評被害が売り上げにどれだけ影響するかは未知数だ。しかし、休業期間中に取引を休止していた顧客が再び応じてくれるなど、人の温かさを感じる場面も増えた。
"復活"への道のりは険しいが、「支えてくれた人に少しずつでも恩返しをしていきたい」。意欲はこれまで以上に高まっている。
(カテゴリー:連載・今を生きる)