東京電力福島第一原発事故に伴う県内23市町村を対象にした住民賠償の請求受け付けが始まり、郵便局に住民が殺到している。書類の返送は特定記録郵便扱いで、郵便局の窓口に持参しなければならないためだ。通常の3~4倍の住民が訪れ、最大で30分待ちの郵便局が出ている。郵便ポストへの誤投函(とうかん)なども相次ぐ。東電は手続きの簡素化と支払いに万全を期す体制づくりに取り組んできたが、対象が膨大でスタートから想定外の混乱が生じている。
■扱い3~4倍
福島市の福島中央郵便局の郵便窓口は12日、賠償請求の請求書を郵送するために訪れた市民で終日混雑した。列に並んでいた同市の公務員女性(50)は「仕事で時間がないのに、郵便局にわざわざ届けないといけないなんて」とうんざりした表情で話した。
休日も開局している同局は土曜日の10日に約580通、日曜日の11日に約350通の請求書の郵送を受け付けた。佐藤勝副局長は「通常の週末に比べ、窓口で扱う郵便物は3~4倍。職員を1人増員し対応したが想像以上の多さだ」と驚く。封筒と一緒に窓口に提出する「特定記録郵便物差出票」の届け先に、あらかじめ局員が「東京電力」と記入し、待ち時間の短縮を図っている。
郡山市の郡山郵便局は、10日から通常窓口とは別に賠償請求専用の窓口を2カ所設け、専従職員を配置した。担当者は「局員が多いので対応できているが、職員数が少ない郵便局は大変だろう」と想像する。
■誤投函
東電は避難区域の住民らの賠償で当初、請求書の返送に普通郵便を採用していた。しかし、住民から届いたかどうかの問い合わせが相次いだため、受付日時や到着日時が記録される特定記録郵便に改めた。
しかし、今回の23市町村の住民賠償の対象は約150万人、約50万世帯。避難区域の住民約15万人、約6万世帯の約10倍と、膨大な量の請求書のやりとりとなる。
既に誤ってポストに投函するケースも出ている。郵便事業福島支店によると、管内の福島市南部では、10、11日の2日間でポストに投函された賠償請求の封筒が約400通あった。同支店の担当者は「配達はするが、郵便物が追跡できるよう窓口での手続きをお願いしたい」と呼び掛ける。
封筒の裏面に差出人の住所や名前の記入欄がないことも混乱を招いている。福島中央郵便局には12日、差出人から「書類に漏れがあった」と取り戻し請求があったが、特定作業は難航。手続きの際に封筒に印字した番号を手掛かりに何とか見つけ出した。
東電福島原子力被災者支援対策本部福島地域支援室の担当者は「書類にミスがあった場合、電話をいただければ、手続きに応じたい」としている。
■窓口設置遅れる
東電はコールセンターを増強し、職員3200人態勢で賠償に関する住民からの疑問に答えている。警戒区域など避難区域が対象になった際の900人と比べ3倍以上だ。
一方、23市町村への相談窓口の設置は遅れている。設置日時がなかなか決まらず、相談窓口の概要の発表は、5日の請求書の発送開始から1週間後の12日夜にずれ込んだ。周知が不十分で、12日に始まった福島市の2カ所の相談件数はわずか4件だった。
相談人員も不足している。天栄村の3月の相談は2カ所計4回で、不定期に設置される場所も多い。東電福島原子力被災者支援対策本部福島地域支援室の担当者は「人員は約200人。23市町村に割り振らなければならない」と頭を抱える。
市民の混乱を防ごうと、独自に対応に乗り出す市町村も出ている。福島市は1日、自主的避難等損害賠償相談窓口を設置した。専属の職員3人が平日午前9時から午後5時まで相談に応じている。
市によると、相談件数は12日正午現在、230件に上る。市の担当者は「市民全員が対象になるため、問い合わせは多い。きめ細かく疑問に答えたい」としている。
背景
東京電力の福島第一原発事故に伴う県北、県中など23市町村を対象にした住民賠償は、妊婦と18歳以下の子どもが自主避難した場合は一人当たり60万円、避難せずにとどまった場合は40万円、それ以外は避難してもしなくても一律8万円を東電が支払う。対象地域に住民登録をしていない場合でも、生活の実態を証明する書類と一緒に提出すれば請求できる。5日から順次、請求書を発送し、住民票があった世帯には今週中にも届く見込み。早ければ今月下旬にも銀行振り込みで支払いを開始する。県南、会津の26市町村は今回の賠償の対象外となっている。
※特定記録郵便
日本郵便が郵便物やゆうメールの「受付日時」と「到着日時」を記録する配達方法。引き受けの際に差出人に記録として受領証を発行する。郵便追跡サービスも利用でき、差出人が配達の完了を確認することもできる。請求書や納品書、信書などを送る際に利用されている。
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