■捜査嘱託犬審査会に出場 渡辺 武彦さん(69)
東京電力福島第一原発事故でいわき市の借り上げ住宅に住む警察捜査嘱託犬指導手、渡辺武彦さん(69)=富岡町下郡山=は9日、福島市の県警機動センターで開かれた捜査嘱託犬審査会に愛犬2頭と出場した。愛犬とは原発事故で一時、離れ離れになり、十分な調教はできなかった。それでも「できる範囲で警察犬を育てていきたい」と新たな一歩を踏み出した。
渡辺さんは12年前、JRいわき駅長を辞めた後、昔から興味があった警察犬の指導手を志した。当初は3年続けて審査会で落選した。だが諦めることはなかった。
自宅に訓練場を整備し、先輩の指導手から育成法を教わった。以来、南相馬、相馬、双葉の三署から毎年、警察犬として嘱託を受け、行方不明者の捜索などで活躍してきた。
ところが、震災が全ての環境を奪い去った。津波で自宅と訓練場は被害を受けた。原発事故が起き、それまで育てていた4頭を自宅に残して泣く泣く避難した。
その後、警戒区域内の自宅から動物愛護団体が東京都内に連れて行っていた2頭を含めて3頭を引き取ったが「避難生活を送りながら捜査犬は育てられない」と断念。石川町にいる指導手仲間に預けた。このうち1頭は東北大会で優勝経験があるアンドロメダ(雌10歳)で、慣れない生活によるストレスで昨年10月、渡辺さんに見取られて死ぬ。
石川町の仲間のところにはアウトサイダー(雄6歳)とハウスキセン(雌9歳)が残された。
犬たちとは月に1度程度しか会えなかった。当初、審査会出場は諦めていた。しかし、仲間や県警担当者に励まされ「もう1度挑戦してみよう」と思い立った。
審査会では、2頭と共に犯人の逃走経路を臭気で追跡する「足跡追及」部門に臨んだ。2頭は期待以上の成果を挙げた。さらにこの日、嘱託10年の節目として県警本部長感謝状を受けた。「犬は自分の命の短さをしっている。この子らが生きている間に富岡に戻って訓練したい」。夢が膨らんだ。
審査会には足跡追及に26頭、臭気選別に13頭が出場した。15頭が警察犬に委嘱される予定で、結果は来週発表される。
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