■松栄高(南相馬)出身の学法福島高3年 大井泰尚君 17
「新しい仲間のおかげで、また日本一に挑戦できる。出会いに感謝したい」。東京電力福島第一原発事故を受け休校中の松栄高(南相馬市)で省エネカーの製作に取り組んでいた大井泰尚君(17)は、転校先の学法福島高(福島市)で部活動を再開し、15、16の両日、栃木県で開かれる省エネカーレースの全国大会に出場する。避難、仲間や恩師との別れ、学校の休校...。数々の試練を乗り越え、部長として仲間を率いる大井君は松栄高の技術と思い、そして両校の期待を乗せた車で大舞台に臨む。
震災前の平成22年、松栄高は国内最大の省エネカーレース「本田宗一郎杯Hondaエコマイレッジチャレンジ」の高校クラスで2度目の優勝を果たした。当時1年だった大井君も全国制覇の感激を味わった。23年のレースに向け準備を始めた矢先、東日本大震災が発生した。
「みんながどこで、どうしているか分からなかった」。仲間や先生も散り散りになった。大井君も避難先を転々とした後、昨年4月、姉妹校の学法福島高に転校した。真っ先に頭に浮かんだのは連覇を狙う全国大会のことだった。
「レースに出たい。優勝旗を返還しなければ」。一緒に転校した部活動の先輩2人と、参加を目指したが、震災直後で大会どころではなく、出場はかなわなかった。
しかし今春、松栄高で部活動の顧問、副顧問だった佐々木博教諭(59)と清野真一教諭(39)が学法福島高に赴任してきた。3年生になった大井君は創部を目指し、部員集めに奔走した。「機械いじりに興味ないですか」「省エネカー作りをやってみない」
自動車好きの1年生、父が整備士の2年生、ものづくりに情熱を持ち、高校生活最後の年に参加した3年生ら部員16人が集まり、「エコラン研究部」が創部された。専門的な知識はないが意欲的な部員ばかり。全国大会を目指して、ゼロからの挑戦が始まった。
大会はミニバイクのエンジンを使い、ガソリン1リットル当たり何キロ走行できるかを競う。試行錯誤しながら8月中旬に省エネカーが完成し、エンジン音を響かせながら走り出したとき、部員みんなが歓声を上げて喜んだ。「やったぞ。俺たちのマシンが走った」
名称は「D.D.ZERO」。素材の段ボールプラスチック、ドリーム、そしてゼロからの出発の意味を込めた。
大井君は「震災後に部活動が再開できるとは思わなかった。新たな仲間と出会い、夢を追うことができて幸せ」と喜びをかみしめる。長年多くの生徒を送り出してきた佐々木教諭は「省エネカー作りに取り組む生徒の姿を再び見ることができてうれしい」と目を細める。
大会は栃木県のツインリンクもてぎで開かれ、15日に試走、16日に本番が行われる。省エネカーは、みんなの夢を燃料に走り続ける。
(カテゴリー:連載・今を生きる)