■双葉町・上羽鳥区長 松木秀男さん 64
東京電力福島第一原発事故で避難生活を余儀なくされている双葉町上羽鳥地区の住民の声を集めた記録集が完成した。区長の松木秀男さん(64)が原稿集めや編集に奔走した。3日、全38世帯に発送する。
上羽鳥地区は町西部に広がる農村地帯で、ほぼ全戸が農業を営む。数100年前から続く家も多く、土地への愛着が強い。松木さんは昨年4月に白河市で働く長男夫婦の元に妻と避難して、同市の借り上げ住宅で生活している。
時間がたつにつれ、避難者同士が話していても東日本大震災や原発事故当時の記憶があいまいになってきていることに気付いた。事故当時の出来事を記す必要性を感じたほか、慣れない土地で暮らす町民に、古里を思い出す1冊にしてもらおうと記録集作成を思い立った。
知人の関係をたどって全世帯の住所を調べ、原稿執筆を依頼した。「3・11」当日の思い出や家屋の被害状況、避難状況と避難先、現在の生活の様子など、さまざまな項目のアンケートに答える形で書いてもらった。9月に原稿を募集し、10月に全世帯、45人から届いた。
アンケートの最後に掲げた「上羽鳥地区の皆さんへの伝言」には住民の思いがつづられた。「皆さんがなつかしく、いつも思い出しております」「以前のような集落を実現することは困難ですが以前のようなつながりを持続できればうれしいです」。古里を共有する者同士の温かな心遣いが伝わる。
松木さんは「手に取って喜んでもらえれば光栄だ。地区の絆を忘れないでほしい」と話す。記録集はA4判、50ページ。区費を充てた。今年3月に猪苗代町で開いた住民交流会の写真も掲載した。
(カテゴリー:連載・今を生きる)