県は平成25年度から全県規模の地域伝統芸能大会を毎年開催し、県内で継承されてきた民俗文化の維持、地域コミュニティーの再生を目指す。東日本大震災、東京電力福島第一原発事故により存続が危ぶまれる地域文化を守り、住民の絆を強めて本県の復興に役立てる。初年度は秋にいわき市で開く方向で調整し、県内約20グループが出演する。発表に加え、団体の存続に向けたノウハウを習得する機会を設ける。24年度に本県で催された地域伝統芸能全国大会福島大会で培った手法を「県版」の大会運営につなげる。
■初回、秋にいわきで予定
初年度の大会は、津波で被災し、原発事故の避難者が多く住むいわき市を会場に2日間、開催する方針。出演団体は市町村の推薦などにより選ぶ。神事に伴う舞踊や楽器演奏など地域に根付いた芸能を受け継ぎ、子どもや若者が主に活動を担っているグループを中心とする。
大会では各団体が施設のホールや屋外ステージで発表するほか、担い手育成や団体運営の手法などを習得する講座を開く。出演者や関係者が情報交換する交流会も催す。震災による消滅の危機を乗り越えて活動している県外のグループなどを招き、県内の団体に経験を伝える機会も設ける。
24年度の地域伝統芸能全国大会福島大会は10月に郡山、会津若松両市で開かれ、県内外から68団体が出演、約6万2千人の観客が訪れた。県は全国大会で成功した運営やPRの手法を県版の大会に反映させ、全県規模の文化行事として定着させる考えだ。
県文化振興課は「地域の宝である伝統芸能を活性化させることで地域コミュニティーの維持、復興につなげたい」としている。
■震災、過疎化...活動困難に
県内各地の伝統芸能は、震災の発生以前から少子高齢化や過疎化により担い手を確保しにくい状況となっていた。さらに、震災と原発事故の発生後は、住民の避難などで継承が困難になるケースが出ている。
県は伝統芸能の喪失は地域コミュニティーの崩壊、復興の遅れにつながる懸念があるとして、津波で道具や衣装を失った団体への補助制度を設け、県文化振興財団の事業で活動経費の一部を助成してきた。今後は、団体の維持・活動の意欲を高めるため発表や情報交換の機会の確保が必要とみて、県版の大会を催す。
会員が県内外に避難しながら「請戸の田植踊」を続ける浪江町の請戸芸能保存会の渡部忍会長(62)は「震災と原発事故で窮地に追い込まれた団体は多い。発表や交流の場があれば、存続への意欲が高まる」と期待する。ただ、避難先からの移動など活動費の確保が課題となるため、支援策の拡充を求めている。
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