東京電力福島第一原発事故の放射性物質による汚染と闘う天栄村のコメ農家の姿を全国に発信しようと、長編ドキュメンタリー映画「天に栄える村」(仮題)の製作が進んでいる。放射性物質検出ゼロを目指し、苦闘する人間模様を描く。2月から県内外で上映し、県産農作物の風評払拭(ふっしょく)と原発事故の風化防止につなげる。
映画作りを進めるのは東京の映画製作会社、桜映画社。同社の原村政樹監督(55)らは原発事故前から、村内で取り組む「日本一おいしいコメ作り」に注目し、映画の題材として取り上げてきた。原発事故が発生したのを受け、村の農業の今後を心配し、1カ月後には「自分たちでできる支援を」とカメラ持参で村に入った。
有機農法などで「日本一おいしいコメ作り」を目指す村内のコメ農家21人による「天栄米栽培研究会」が全面的にバックアップし、製作委員会に同社とともに名を連ねる。映画では、研究会の農家が中心となって、「安全・安心」の品質を確保しながら、おいしいコメ作りに格闘し、消費者の手にコメを届けるまでの姿を丹念に追っている。
放射性物質を除去するために村内全ての農家約600戸が薬剤のゼオライトやカリウム、プルシアンブルーの散布に踏み切り、昨年は全袋で放射性物質の基準値をクリア。研究会がコメの食味世界一を決める「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で5年連続金賞受賞を成し遂げるまでを描写する。大切な田畑を汚され、暮らしぶりが一変した農家の怒り、原発事故で家族が避難することになった苦悩、それでも前を向いて地元で農業を続ける強い意志などを盛り込んだ。
撮影は昨秋終了し、現在は編集作業中。1時間50分程度の作品として2月に完成する予定だ。2月下旬に村内で上映した後、山形、神奈川両県での映画祭に出品する。DVDソフト販売の構想もある。
製作と上映に必要な経費約1千万円のうち200万円は、研究会と村が協賛金として一般から寄付を募っている。村内の農家らが全国のイベント会場や農業団体などに足を運びながら寄付を呼び掛けるとともに映画をPRしている。
研究会の岡部政行会長(62)は「事故から1年9カ月がたち、記憶の風化が懸念される。もう一度、原発問題を日本全体で考えるきっかけになれば」と期待する。原村監督は「県民の前向きな生き方を描き、見る人を勇気づけたい。後世に残る作品になるだろう」と思いを語った。
◇ ◇
研究会と村は個人1口5000円、団体1口1万円で協力を呼び掛けている。問い合わせは研究会事務局の村産業振興課 電話0248(82)2117へ。
(カテゴリー:福島第一原発事故)