東京電力福島第一原発事故に伴う「母子・父子避難」世帯の高速道路料金無料化が大型連休に間に合わない見通しとなったことに、県内外に自主避難する保護者に不満が広がった。子どもの健康を気にしながら、出費を切り詰めて続ける「二重生活」。無料化の開始が延びたため、楽しみにしていたゴールデンウイーク中の帰宅を取りやめる世帯も出ている。「政治家と国会は被災者に寄り添っているのか...」。怒りと嘆きが交差する。
■全てが遅い
「楽しみにしていたのに。納得いかない」。大玉村から相模原市に自主避難している主婦鹿目久美さん(45)は表情を曇らせた。大型連休に高速道路を使って夫(36)が残る村内の自宅に戻るつもりだったからだ。
小学校に入学したばかりの長女(6つ)と避難生活を送る。3年前に新築した自宅の住宅ローンに加え、二重生活の費用が家計を圧迫する。被災地域の高速道路が無料だった震災直後は頻繁に自宅と避難先を行き来できた。有料に戻ってからは、夫の顔を見る機会がめっきり減った。大型連休もまた、会えそうにない。
国土交通相が自主避難者への無料化措置拡大を表明した3月中旬から、1日も早いスタートを待ち望んでいた。国の当初予算成立のずれ込みが原因と聞き、「政治家は一体、何をしているのか」と憤った。
郡山市から横浜市に長男(11)と避難している富塚千秋さん(41)は自主避難者らでつくる「福島避難母子の会in関東」の事務局を担当している。自主避難している母親らが集まると、決まって交通費の負担の重さが話題になる。「政府の避難者支援策は全て対応が遅い。こうしたことが繰り返されれば、自主避難者が古里に戻って暮らす意欲がますますなえてしまう」と指摘した。
■知恵絞って
被災者の立場に立った国の柔軟な対応を求める声は多い。
「いくらでもやり方があるのでは...」。郡山市に夫(47)を残し、新潟市に長女(10)と暮らす主婦(45)は、利用者が料金を立て替え、国が予算成立後に払う方式を提案する。「予算成立が間に合わないというなら、政治家と官僚は知恵を絞ってほしい」と訴えた。
せめて開始時期くらい示してほしいという意見も。会津若松市に長男(2つ)と避難している本宮市の主婦(30)は、無料化により夫(30)の待つ自宅に戻る回数が増えると期待していた。「ぬか喜びに終わらせないで」と祈った。
■行政も困惑
「母子・父子避難」世帯の無料化方針が明らかになってから、郡山市には県内外の自主避難者から「いつ始まるのか」などの問い合わせが相次ぎ、関心の高さがうかがわせる。
国からは開始時期に関する連絡は一切なく、市の担当者は対応に苦慮している。市原子力災害対策直轄室の担当者は「大型連休に家族との再会を楽しみにしている自主避難者も多いと思う。無料化が間に合わないのなら残念」と話す。
福島市危機管理課の担当者は「高速道路が無料になれば、自主避難者が市内に戻る機会も増え、地域とのつながりも保てる」と1日も早い開始を求めた。
佐藤雄平知事は政府に対し、無料化措置の実施を求めてきた。避難者支援を担当する県生活環境部の職員は「原発事故に見舞われた本県の現状を考えれば、政府は予算成立にこだわらず(予備費など)どのような手段を使ってでも1日も早く開始すべき」と力を込めた。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)