県は住宅除染が適切に実施されたかを判断するための基準を設けた。県民の放射線への不安を解消するとともに、除染作業への信頼を高めるためだ。
除染の実施前と実施後の放射線の減少率の目安を屋根34%、庭の表土50%、壁・塀43%、雨どい53%に設定。除染結果が基準値を大幅に達成できない場合は専門家を派遣し、作業に問題がなかったかを調査する。
これまでの住宅除染による減少率の平均値を採用した。単位は屋根などの表面で1分間に測定される放射線の数(cpm=カウント・パー・ミニッツ)で、一般的に放射線を放出する放射性物質の量が多いほど、数値は大きくなる。県は市町村が業者に発注する住宅除染の目安にしてもらう考えだが、導入は強制していない。
ただ、基準を達成しても、国が追加被ばく線量の長期的な目標とする年間1ミリシーベルト以下になるとは限らない。県の基準はこれまでの住宅除染の実績から導いた数値で、単位も放射線が人体に与える影響の度合いを表す「シーベルト」とは異なる。原発事故以降、cpmよりもシーベルトを聞き慣れた県民が多く、市町村からは「cpmではなくシーベルトで示してほしい」との声も出ている。
■基準導入慎重な市も 「住民の混乱招く恐れ」
南相馬市は県の除染基準について、市の除染方針と異なり住民の混乱を招く恐れがあるとして導入に慎重な姿勢を見せる。
市は生活圏の除染について、平成27年3月末までに風雨などの自然要因による減衰を含めて60%の空間放射線量の低減を目指している。国が直轄で行う原発事故の避難区域を除き、市が実施している除染作業の進捗(しんちょく)状況は計画全体の5%ほどにとどまる。
県が示した基準では具体的な運用方法が示されていない。また、市は放射線量が低いことなどを理由に、壁など垂直な面の除染を実施せず、県が示す基準には当てはまらない。市除染対策課の担当者は「各自治体で除染の計画や方針は異なる。再除染を実施するにしても、技術的に難しい状況が想定され、住民の理解が得られるかは不透明。当然、作業員の増員は困難だ。県は現実的な除染作業の在り方を検討すべき」と指摘する。
放射線量に応じて3エリアに分けて除染を進める伊達市。公共施設は毎時0・23マイクロシーベルト、宅地は同1マイクロシーベルトが目標だ。市の担当者は、「新たに県の定めた基準を導入するとなると、住民は違いが分からず当惑するだろう」と懸念する。
今年4月に県から示された除染の基準について、須賀川市の担当者は「参考になるが、今まで通り可能な限り下げることを目標に取り組みたい」と現状を見据える。須賀川市はこれまで学校などの公共施設を最優先に、比較的放射線量の高い宅地や道路、農地などの除染をしてきた。地区ごとの説明会で住民から出る言葉は何ポイント下がるかではなく、何マイクロシーベルトになるかだった。「あくまで住民が納得する形で除染を進める」。市民の思いを優先する。
高線量地域と低線量地域では減少率に差があり、低線量地域では低減率が5割に満たなくても、空間線量が毎時0・23マイクロシーベルト未満になる場合もあるという。
(カテゴリー:震災から2年3カ月)