東京電力福島第一原発事故に伴う除染は、市町村が定めた実施計画からの遅れが目立っている。県除染アドバイザーで、エネルギーや環境に関する研究に取り組む電力中央研究所(本部・東京都千代田区)の井上正さん(64)は、除染の推進には仮置き場確保に続き、汚染された土砂や草木などの減容化技術の確立が重要になると強調した。
原発事故から2年三カ月が経過した。今後の除染の課題として、土砂や草木の体積を減らす「減容化」の実現を挙げた。除染に伴い当初考えていた量以上の廃棄物が発生している。中間貯蔵施設への移動前に体積を減らすことができれば、より多くの廃棄物の保管・搬入が可能となり、除染の加速化につながる。
放射性セシウムは地表で粘土質の粒子に吸着しやすい。除去した表土を撹拌(かくはん)することなどでセシウムが吸着している微細粒子を分離し、体積を減らすことが重要になる。ただ、現在の技術では70〜80%のセシウムしか除去できないのが現状で、技術開発が必要だという。
除染で出た木や草などの有機物の減容化も急務と指摘する。そのままの形で保管すると、量が膨大な上、腐敗に伴いメタンガスが発生し、火災などを引き起こす恐れがあるという。焼却やチップ化が有効だが、専用施設を建設するためには住民理解が課題になる。「住民は焼却に伴う煙などに不安を抱く。施設外には放射性物質を絶対に出さない措置を取り、科学的データを示して住民に納得してもらわなければならない。減容化に向け、国は一層、力を入れるべき」と話す。
県が示した住宅除染による放射線の減少率の基準は、屋根が34%、表土50%、壁43%。放射性物質を完全に取り除けない。井上さんは「時間の経過で除染効果が出にくくなっている」と説明。屋根などに付着したセシウムは、屋根表面の微細な穴に入り込むなどして、取り除くのが難しいという。「雨どいや用水路などセシウムがたまりやすい場所の除染に力を入れるべき」とした。
今後の除染の進め方については「住民参加型」を提案する。「住民が参加して仮置き場などを決めることが大切。除染作業にも積極的に加わってもらい、町内会単位などで面的に行っていくことが効果的な除染になる」としている。一方、除染そのものの在り方を見直す時期にも来ているという。「費用対効果を考慮し、どこから手を付けるべきかを考えて取り組まなければいけない。復興につながる事業にも予算の集中投下が必要な時期に来ている」と語った。
国は除染実施後の長期的な目標を年間被ばく線量一ミリシーベルト以下としているが、市町村などからは「達成に向けて苦慮している」との声が出ている。井上さんは目標の一ミリシーベルトについて、「数値にこだわる必要はない。それよりも避難に伴う精神的ストレスに配慮すべきだ。手狭な仮設住宅でストレスを感じて生活するよりも、空間放射線量が比較的高い地域であっても住み慣れた古里に戻る選択肢があっていい。自分にとって何が最適なのか、リスクとのバランスを考えるべき」と強調した。
■いのうえ ただし
岐阜市出身。名古屋大大学院工学研究科博士課程中退。昭和49年に電力中央研究所に入所。現職は研究アドバイザー。専門は原子力燃料サイクル、廃棄物処理。
(カテゴリー:震災から2年3カ月)