塙町と県が事業化を目指していた県内最大規模の木質バイオマス発電施設をめぐり、菊池基文町長は5日、整備計画を当面、凍結すると発表した。県に計画凍結を申し入れた。8月29日に発生した鮫川村の仮設焼却施設の破損事故を受け、地域住民からの理解を得るのが困難と判断した。突然の計画凍結に、町民の受け止めはさまざま。森林除染で出る間伐材の処分施設として期待していた関係者らは「残念」「住民理解に努めたい」と複雑な表情を浮かべた。
菊池町長は町役場で記者会見し、「木質バイオマス発電の整備は鮫川村の施設の安全性を確認した上で取り組もうと考えていた」と説明。稲わらなどを焼却する同村の施設と同様に、バイオマス発電で燃やす間伐材などにも微量の放射性物質が含まれるため、「(鮫川村の)仮設焼却施設と使用目的は異なるが、事故で町民の不安を拭えない状況になった」と計画凍結を判断した理由を語った。
今後の対応については「鮫川村の仮設焼却施設の動向を注視していく」と述べた。
菊池町長は4日に環境省の山本昌宏廃棄物対策課長から同村の仮設焼却施設の事故概要などの報告を受け、近隣住民に対する説明などを求めたことを明らかにした。
施設は町内東河内の民有林内の約4ヘクタールに建設を計画している。東京の事業者が施設を建設し、運営する。今年度から町が用地造成に入り、26年度後半にも稼働する予定だったが、地元の一部住民による反対を受け、町は用地買収に着手していなかった。
■計画賛成町内男性「安全な施設」 反対グループ「目標は撤回」
木質バイオマス発電施設整備計画の凍結を受け、町内に波紋が広がった。
計画に賛成する町内の60歳代の無職男性は「木質バイオマス発電施設は環境に影響を与えない安全性を備えていると考えている。菊池町長が凍結を発表したことは残念だ」と述べ、今後の町の林業活性化や雇用促進などへの影響を懸念した。
計画に反対する住民グループ「塙町木質バイオマス発電問題連絡会」の吉田広明代表(57)は「菊池町長は『凍結』という表現で将来の計画再開をもくろんでいる。自分たちの目標は計画の白紙撤回で、今まで通り反対活動を続けていく」と話した。
■県、理解求める考え 県森林組合連「間伐除染に不可欠」
県には5日午前、町の担当者から電話で計画凍結の連絡が入った。林業振興課の担当者は「地元の合意が得られなければ事業は進まない。理解してもらえるよう、丁寧に住民に説明したい」と言葉少なに語った。今後、町が開く説明会などに同席し、理解を求める考えだ。
県は今年度、林野庁の交付金約41億円を元に森林間伐による除染事業に取り組む。伐採木の一部はバイオマス発電施設で焼却する計画で、関係者の1人は「伐採木を活用する『出口』の一つがなくなりかねない。伐採木の活用方法を含め、県の事業計画自体の変更を余儀なくされる可能性がある」と危機感を募らせた。
また、県はバイオマス発電施設の総事業費約60億円のうち、半分の約30億円を、県が国の交付金で造成した基金から事業主体である東京の事業者に補助する。事業費の今後の扱いについて県は「町と協議しながら判断したい」としている。
総事業費の半分の約30億円を負担する事業者は福島民報社の取材に対し、「担当者が不在なのでコメントできない」とした。
森林再生を目指し、7月に木質バイオマス発電の推進に関する決議を採択した県森林組合連合会は、今後、国や県に事業推進を働き掛ける矢先だった。宍戸裕幸専務は「発電施設は森林伐採による除染に不可欠で、整備を期待していただけに残念。他地域での木質バイオマス発電事業に影響が出ないか心配だ」と話した。
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県によると、県内では現在、白河市と会津若松市の民間事業者による木質バイオマス発電施設が稼働している。南相馬市、飯舘村、川内村などで自治体による発電所の整備の構想があるが、まだ具体化していない。
■鮫川の焼却施設再開のめど立たず
鮫川村の仮設焼却施設では8月29日、施設内の主灰コンベヤーを覆うアルミ製ケースが破損する事故が発生した。環境省は焼却炉とコンベヤーの間にあるゲートの閉め忘れで「炉内から可燃性ガスが漏れ出し、引火したとみている。同省は安全対策と再発防止策を講じるとしているが、運転再開のめどは立っていない。
村内の農家の敷地内に置かれた、放射性物質を含んだ稲わらや牧草の処理が遅れるのは必至で、村には村内の農家から運転再開に関する問い合わせが相次いでいるという。
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