■後継者 阿部一夫さん 62
福島市の「桃源郷」花見山は、前園主の阿部一郎さんが昨年9月に亡くなってから初めての春を迎えた。後を継いだ長男の阿部一夫さん(62)は2日、息子の晃治さん(29)と花木の手入れに汗を流した。ハクバイやサンシュユ、ツバキが満開となり、間もなく桜のシーズンが到来する。観光客の笑顔から父の偉大さを感じてきた。「花を愛した父の思いを受け継ぐ」。ボランティアと共に、古里の宝を守り続ける。
暖かい日差しが花木を照らす。「この山の花を楽しみにしてくれている人たちのために精いっぱい頑張るだけ」。一夫さんは花見山を守り続ける思いを語った。
訪れた人に笑顔になってほしい。花は私の全て
一郎さんの口癖だった。93歳で亡くなるまで人生を懸けて花を育ててきた。
一夫さんは昭和45年に福島農蚕(現福島明成)高を卒業後は40年余り一郎さんの背中を追い、一緒に花見山の手入れをしてきた。園主を引き継ぎ、あらためて父の存在の大きさを感じた。
花木は順調に生育していた。しかし、2月の大雪で、一部が倒れるなど被害が出た。平成23年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の影響で、花見山の入場を規制せざるを得なかったときのことを思い出した。父はもういない-。自分の仕事が試されているようなプレッシャーを感じた。
市やボランティア「ふくしま花案内人」が除雪や歩道整備を手伝ってくれた。共に花見山の手入れをしてきた長男の晃治さんも支えになった。「自分にできることを全力でやるだけ」。気持ちを切り替えた。
父が残したのは山や花木だけでない。何より、毎年、楽しみに全国から訪れてくれる多くのファンがいる。
今、日に日に彩られていく花見山の姿に万感の思いが込み上げる。「父は体調を崩す直前まで花を植え、観光客が歩きやすいように歩道を整備していた。託された大切なものを晃治と守っていかなければならない」
■花案内人 一郎さんの言葉胸に
気兼ねなく見ていってくなんしょ
花見山の観光客に見どころや名所を紹介する「ふくしま花案内人」会長の河野恵夫(よしお)さん(73)=福島市町庭坂=は、阿部一郎さんの言葉を胸に来場者に対し、花の素晴らしさを伝えるつもりだ。
一郎さん亡き今、約140人のメンバーは心を一つに、花見客を出迎える準備を整えた。「来訪者に花を見て、元気になってもらおう」
河野さんは花見山に魅せられ、10年前に案内人になった。一郎さんが喜んでくれるよう、精いっぱい花見山の魅力を伝えていく。「花を見ているだけで幸せな気持ちになれる。その手助けをしたい」と誓っている。
■5日から29日まで交通規制
福島市の花見山周辺は観光シーズン到来に伴い、5日から29日まで周辺地区での駐車やマイカー進入禁止の交通規制が始まる。時間は午前7時から午後5時まで。期間中は各臨時駐車場からバス専用の臨時駐車場まで臨時シャトルバスを運行する。問い合わせは花見山情報コールセンター 電話024(526)0871へ。
福島民報は2日付から花見山の開花状況を知らせる「花見山開花情報」を各地方版に掲載している。
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