東日本大震災アーカイブ

果実が結ぶ 復興の絆 ツアー通し新たな顧客

おいしい果物作りを誓い、リンゴの収穫に励む安斎さん

■福島・飯坂の農家 安斎忠作さん 66

 「やっと復興の兆しが見え始めてきた」。福島市飯坂町で安斎果樹園を営む安斎忠作さん(66)は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故による風評被害に負けず、主力リンゴ「ふじ」の収穫を精力的に続けている。「震災以降、本県の復興を応援してくれる多くの人たちと出会えた」。安斎さんは、その絆を励みに、復興への手応えを感じながら日々の農作業に汗を流している。

 震災直後の平成23年、売り上げは震災前の65%程度にまで落ち込んだ。本県産の牛肉やコメ、干し柿から基準値を超える放射性物質が検出されたことで農作物全体に風評被害が及び、安斎果樹園でも主力のモモをはじめ贈答用果物の注文が激減した。ジャムなどの加工品にも影響が出た。
 県内外に福島の果物の安全性やおいしさを伝えていかなければ本県農業が衰退してしまうと考え、各行政機関や県内外のさまざまな団体が企画する復興応援ツアーを積極的に受け入れた。
 国内の実業家や政治家らでつくるG1サミットを母体とするG1Youth(ジーワンユース)が、農業から本県の復興を目指そうと平成25年に「福島桃の木プロジェクト」を立ち上げ、同果樹園でモモを栽培している。飯坂温泉観光協会の「くだものの木オーナー制度」を利用しており、福島高生も活動に協力している。育てたモモはプロジェクトに賛同する東京や大阪など全国20の飲食店で料理やスイーツとして提供されている。
 復興応援ツアーなどで初めて本県を訪れ、サクランボ狩りやモモ狩りを体験した観光客からは「とてもおいしい」と好評だ。
 震災から3年が経過した今年になって、モモをはじめとする果物の売り上げがようやく震災前の水準に戻りつつあるという。贈答用に果物を買い求める顧客が少しずつ戻ってきたことに加え、復興応援ツアーなどで訪れた観光客らが新たな顧客になってきたことが要因で、農業振興への手応えを実感している。
 安斎さんは、風評を完全に払拭(ふっしょく)するにはまだまだ時間がかかると覚悟している。それでも震災以前からの顧客との絆に加え、震災以降生まれた新たな絆を強くすることが本県農業の復興につながっていくと信じ、そのためにも「農業の基本に立ち返り、おいしい果物を作り続けたい」と誓っている。

本県産のモモ単価徐々に回復

 県によると、東京都中央卸売市場で取り扱うモモ1キロ当たりの単価は東日本大震災前の平成22年、全国平均で498円、本県産は439円だった(全国平均比88%)。震災直後の23年は全国平均507円に対し、本県産は222円(同44%)と約半額にまで落ち込んだ。震災から3年が経過した26年は、10月末時点で全国平均519円に対して本県産は358円(同69%)にまで回復してきている。