東日本大震災アーカイブ

王国の味発信、風評払拭 干しぶどう商品化 福島の「フルーツのいとう園」

新商品の干しぶどうを手に、風評払拭と地域農業の活性化を誓う伊藤さん

 福島市の「フルーツのいとう園」は自社で栽培したブドウを使った干しぶどうを商品化し、今月中旬から販売を始める。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の風評などのため本県の果樹農家全体の売り上げが落ちた。社長の伊藤隆徳さん(67)は「福島の果物のおいしさを県内外に発信することで風評を払拭(ふっしょく)する力になりたい」と意気込んでいる。

■砂糖、保存料無添加 皮まで柔らかく

 代々、同市飯坂町で農業を営み130年。2ヘクタールの土地でモモやブドウ、リンゴなどを栽培している。平成25年に法人化し、4代目の伊藤さんが社長として果樹を栽培している。
 原発事故による風評の影響で果物の価格は下落し、贈答用の果物の販売が激減した。23年の売り上げは震災前に比べ3割減だった。状況を打開するには新たな顧客を探すしかなかった。県中小企業団体中央会の職員に「出回っている干しぶどうはほとんどが輸入品。贈答用のブドウを使ったオリジナルの干しぶどうを作ってみてはどうか」と提案された。震災の翌年、本県の果物の素晴らしさや安全性を発信でき、「新たな顧客獲得にもつながる」と開発を決めた。
 ノウハウはなかったが、会津若松市の県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターや矢吹町の県農業総合センター農業短期大学校、岩手県花巻市で干しぶどうを生産・販売している果樹農家などから助言をもらい、25年に中古の乾燥機で試作品作りを始めた。26年には国の「六次産業化推進整備事業」や県の「ふくしま・地域産業六次化復興支援事業補助金」などを活用し、加工場を整備、新たに乾燥機も導入した。
 初めのうちはどうしても皮が硬くなってしまった。乾燥時間や温度を調整するなど試行錯誤の末、26年10月、皮まで柔らかい自信作が完成した。1粒の大きさは2センチほどで、砂糖や保存料など一切無添加のため甘みや酸味などブドウのおいしさが凝縮しているという。巨峰、高尾、ピオーネ、シャインマスカットの4品種で、それぞれ枝付きとバラの2種類を商品化した(シャインマスカットは枝付きのみ)。
 同年9月に郡山市のビッグパレットふくしまで開かれた「ふくしまから はじめよう。食の商談会 ふくしまフードフェア2014」や11月に東京都の東京ビッグサイトで開かれた「第1回ワールドフルーツEXPO」などで商談相手に好評を得て、自信を深めた。贈答用のブドウを使っているため当初は個人相手に数量限定で販売する。伊藤さんは「販路が広がり注文が増えれば地域の果樹農家からブドウを購入し生産していきたい」と話す。
 商品はそれぞれ枝付き150グラム入りが2000円、バラ60グラム入りが700円。シャインマスカットは枝付きのみで100グラム2000円(全て税込み)。問い合わせはフルーツのいとう園 電話024(542)7071へ。

自慢のブドウを使って商品化した干しぶどう