東日本大震災アーカイブ

識者の目 東京大大学院理学系研究科教授 早野龍五さん 県民健康調査 見直す時期に

 はやの・りゅうご 岐阜県出身。東京大大学院理学系研究科修了。同大理学部物理学科准教授を経て、平成9年から同大学院理学系研究科教授。専門は原子物理学。コピーライター・糸井重里氏とともに、県内の放射線の状況などをテーマにした「知ろうとすること。」(新潮文庫)を発刊した。

 原発事故を受け、県内では内部被ばく検査などが各地で行われている。今後の態勢はどうあるべきか-。県内の自治体と連携し、放射線の健康影響を調べている東京大大学院理学系研究科の早野龍五教授(63)に聞いた。
 
■検査の目的示せ
 
 -県内で行われている甲状腺検査の結果をどう見るか。
 
 「先行検査と本格検査を含め104人ががんとなり、33人ががんの疑いと診断された。チェルノブイリ事故では事故から5年後に子どもの甲状腺がんが急増した。検査はまだ二巡目の本格検査の途中で、『放射線の影響』と見極める時期ではない。三巡目以降の検査結果の推移を注視していきたい」
 
 -外部被ばく線量を推計する県民健康調査の問診票回答率が20%台にとどまっている。
 
 「現状のやり方で回答率を上げるのは難しいと思う。原発事故から時間が経過し、問診票の記入も難しくなっている。個人情報の取り扱いなど乗り越えるべきハードルは高い。しかし、例えば携帯電話の衛星利用測位システム(GPS)記録などを使い、震災直後から数カ月後までの居場所を把握し、外部被ばく線量を推計するのも可能だ。5年目を迎え、今後の調査の在り方を見直す時期にきている。誰のための調査で、何を目的としているのかを、県があらためて示すべきだ。県民の協力がなくては調査は前に進まない」
 
■正しい情報発信を
 
 -三春町や伊達市などと連携して独自に放射線の影響を調査している。
 
 「三春町では、小中学生を対象にした内部被ばく検査を平成23年から実施している。26年は町内の95%に当たる約1200人が受検し、3年連続で放射性セシウムは未検出だった。食生活アンケートでは、7割強の家庭で水道水と井戸水を利用し、6割の子どもが自家栽培や地元で収穫されたコメを食べていた。結果を論文で発表すると、海外のメディアから驚きの声が上がった。正しい情報発信の必要性を強く感じた」
 
 -原発事故以降、ツイッターで県内の放射線に関する現状分析を発信している。狙いは。
 
 「震災と原発事故直後、ネット上では放射線に関する誤った見解などが入り乱れ、情報が錯綜(さくそう)した。物理学者として何かできないかと思い、ツイッターでの情報発信を始めた。一歩引いた目線で、冷静に現状を分析しようと常に心掛けている。次世代を担う中高生ら若い世代にも関心を持ってもらいたい」
 
■県が一層関わって
 
 -放射線の影響調査は短期間では判断が難しい。自治体への要望は。
 
 「被ばくによる影響のリスクは生涯の積算線量に比例する。積算線量計やホールボディーカウンターで個人の内部・外部被ばく線量を把握するのが重要だ。そのためには、行政の支援・協力が必要不可欠となる。市町村はもちろん、広域自治体である県が一層関わるよう求められる」
 

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