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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第5部 財物(34) 一方的な基準疑問 手続きの法制化必要

大熊町に設けられた中間貯蔵施設の一時保管場。周辺では政府と地権者の用地交渉が進む

 秋になると黄金色の稲穂を実らせる水田が大熊町夫沢2区にあった。東を向けば東京電力福島第一原発の西門が見える。今、その場所は原発事故に伴う除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設予定地になっている。
 所有者の門馬好春さん(58)は双葉高を卒業後、大学進学のため上京した。大熊町にUターン就職したが、今は仕事の都合で再び東京都に住む。水田は友人が代わりに管理する。毎年欠かさず東京に実りの証しを送ってくれた。「おかげでコメは買わずに済んでたよ」。原発事故によって水田は栽培どころか、自由に近寄ることもできなくなった。「30年たってもコメは送れそうにない」と友人に告げられた。

 この農地に対し、東電は資産価値を失った賠償、政府は中間貯蔵施設の用地取得のための補償を用意している。門馬さんは「賠償も補償も明確なルールがなく、東電も政府も行き当たりばったりで対応している」と受け止める。
 地権者を集めた「30年中間貯蔵施設地権者会」に参加した。平成27年1月から9月までに7回にわたり環境省と交渉した。用地の原状回復などを求めた。最初は実施する意向を示したが、次回交渉で態度を変えることがあったという。
 大熊町から会津若松市に避難する60代女性も環境省の対応に疑問を抱く。数日後に自宅に来ると連絡があったにもかかわらず、3カ月が経過しても音沙汰がなかった。「手が回らなかったのか。交渉に人手が掛かるのは分かっているはずだが」と無計画さを指摘する。
 門馬さんと女性は「賠償、補償ともに法律で支払い方法を決めるべき」と語る。東電や政府のいわば加害者側が一方的に基準を設け、町民ら被害者に押し付けている-とみる。法律の専門家が間に入る制度の創設などを提案する。

 大熊町などの帰還困難区域内の土地は資産価値が全て損なわれたと見なして賠償される。民法上、全損扱いで支払った東電は土地の所有権を得られる。今回は被災者の帰還や生活再建などを考慮し、所有権は元の住民が持てるようにした。
 その後、中間貯蔵施設の用地提供の話が持ち上がり、結果として地権者が賠償と用地補償を得られる形になった。門馬さんは「二重取りとやっかむ人がいることは知っている」と声を抑え、こう続けた。「中間貯蔵施設を自分の土地に置けと言われた人間の気持ちが分かるのか」。家族との思い出が詰まった土地はやすやすと手放せない。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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