東日本大震災アーカイブ

復興実感に全力 就任1年 内堀雅雄知事に聞く

県内の復興の現状と課題を示す内堀知事

 内堀雅雄知事は12日で就任1年を迎える。10日、福島民報社のインタビューに応じ、「今後も山積する課題に挑み、県民が復興を実感できるように尽くす」と決意を新たにした。「復興と合わせて地方創生を進めることが最重要課題」と述べ、人口減少対策に意欲を示した。(聞き手・取締役編集局長・芳見弘一)

■人口減対策を重視
 -就任後の成果をどう自己評価しているか。
 「福島の未来を切り開くための挑戦を続けてきた。県の復興は途上だが、常磐自動車道の全線開通など明るい光も見えてきた。山積、直面する課題に挑み、県民が復興を実感できるように尽くす」
 -政府は来年度からの5年間を「復興・創生期間」と位置付けている。どのような姿勢で県政運営に臨むか。
 「復興の実現には財源確保が必要不可欠。引き続き国に訴える。特に避難地域の帰還環境の整備、産業基盤の再構築に全力で取り組む。何より大切なのは復興を前に進めたいという県民の強い願いを形にしていくことだ」
 -人口減少対策も急務だ。
 「本県は人口減少が全国で最も厳しい状況にある。復興と合わせて地方創生を進めていくことが最重要課題といっても過言ではない。策定する県の総合戦略に基づき、新産業を担う人材育成や若者の地元定着などに取り組む」
 -中間貯蔵施設の用地確保が難航している。県はどう対応するのか。
 「国は地権者の古里への思いをしっかりと受け止め、設置者として総力を挙げて対応すべき。県としても地権者と国のパイプ役を担う職員を大熊、双葉両町に常駐させるなどしており、今後も積極的に取り組む」
 -東京電力福島第一原発の廃炉作業における国や東電の対応をどう評価するか。
 「まだまだこれからというのが率直な思いだ。サブドレンの運用開始など前進した部分もあるが、汚染水が海に流出するなど県民を不安にさせる現象も続いている」
 -県などが再三求めている福島第二原発の廃炉については東電から明確な回答がない。
 「県内原発の全基廃炉は県民の強い思いであり、願いだ。今後もあらゆる機会を捉え訴える」
 -県は新産業の集積を目指している。展望は。
 「ロボット関連、再生可能エネルギー、医療機器関連に加え、今後は航空宇宙関連産業の集積も進める。大企業を誘致するだけではなく、地元企業と結び付けることが大事だ。中小企業の皆さんが新産業に参入しようという機運をつくり出し、産業振興につなげたい」
 -林業再生に向けて県産木材を使った建築用のCLT(直交集成板)の活用にも意欲的だ。
 「CLTの推進は、新たな木材需要を創出し、森林整備の促進につながる。現在、製造工場の実現可能性を調査しているほか、生産拠点整備を検討している」
 -東京五輪など国内で世界規模の大会が開催される。県はどう関わっていくか。
 「これからの4、5年で復興がどこまで進んだかを世界に知ってもらう大切な契機になる。予選競技の一部や合宿、関連イベントの開催を国や関係機関に働き掛ける」

■「内堀カラー」道半ば
 内堀雅雄知事は震災と原発事故からの復興を具体化し、風評・風化対策や復興予算の確保に成果を挙げてきた。一方で、危機管理体制の不備や災害公営住宅整備の遅れが生じた。「現場主義」と「進取果敢」を信条とする「内堀カラー」の浸透は道半ばだ。
 昨年11月、佐藤雄平県政の継承と発展を掲げ、知事に就任した。今年2月に中間貯蔵施設への除染廃棄物の搬入受け入れを決断し、4月には「復興祈念公園」の整備候補地を決めた。「現場主義=市町村主義」を貫き、地元に寄り添う形で懸案を解決してきた。
 6月には最重要課題である「復興・創生期間」の復興財源を確保するため、交渉手腕とリーダーシップを発揮。12市町村内の県事業の全額国費負担、地方負担の軽減などを実現した。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想、12市町村の将来像も具体化させた。
 「内堀知事はフットワークが軽い」。県内外の首長や政府関係者からの評価だ。課題把握に向け各地に足を運び、今月中には59市町村長との懇談が一巡する予定だ。
 一年間で県外出張した日数は73日。官邸や省庁への要望活動をはじめ、風評・風化対策のトップセールスに力を注いでいる。欧州にも二度出張し、復興の情報発信に努めた。
 庁内に目を向けると課題も浮かぶ。肝いりで発足した危機管理部では、新設した多数のモニタリングポストで不具合が見つかり、吾妻山での避難誘導訓練では緊急速報メールの送信ミスが発生した。
 28年度末までに全4890戸を完成させる予定だった災害公営住宅は、用地確保の遅れなどで29年度末までに完成時期を延長。中間貯蔵施設をめぐっては国と地権者との交渉が難航する中、県内市町村から「県がもっと関与すべき」との意見が出た。
 内堀知事の現場主義やスピード感に職員が追い付いていない-との見方もある。
 昨秋の知事選で共産党を除く各党が「オール福島」の名の下に支援し、誕生した内堀県政。政党関係者は「県議会各会派に気配りし、政策に独自色を出しづらいのではないか」と指摘する。就任2年目を迎え、真価が問われている。

カテゴリー:福島第一原発事故