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【震災から5年】「損害賠償」 ADR審理が長期化 東電和解案を拒否 「仕組みの形骸化」指摘も

 原発事故をめぐり、被災者と東電の和解を仲介する原子力損害賠償紛争解決センターへの裁判外紛争解決手続き(ADR)の申立件数の推移は【グラフ】の通りで、事故発生翌年の平成24年から昨年まで毎年4千件を上回っている。
 
 2月29日現在の総申立件数は1万9211件で、このうち71・5%の1万3739件が和解した。ただ、東電が和解案を拒否し続けるケースも絶えない。
 
 浪江町民約1万5千人が精神的慰謝料の月額5万円増額を求めているADRは、申し立てから2年9カ月たつが解決に至っていない。東電はセンターが示す和解案を6回拒否している。和解案に法的拘束力はなく、「迅速な解決をうたうADRの仕組みが形骸化している」との指摘も出ている。
 
 避難区域や旧特定避難勧奨地点の線引きによる賠償格差の是正を求めてADRや訴訟に踏み切る例も多い。2月10日には伊達市月舘町の布川、御代田両地区の368世帯、1114人が東電に一人当たり月10万円の慰謝料を求めADRを申し立てた。
 
 ADRの和解内容で折り合わず、訴訟に救いを求めるケースもある。原発事故をめぐり東電を相手取って損害賠償などを求めた訴訟は1月末現在で約320件あり、約170件が係争中だ。訴訟は判決内容が強制執行される利点はあるが、手続きが煩雑でADRより長期化する可能性もある。
 
 ※原子力損害賠償紛争解決センター 政府が平成23年8月に開設した公的な紛争解決機関。東京電力の損害賠償提示額に納得できない被災者からの申し立てを受け、調査官(弁護士)が損害を調べる。仲介会員(同)が面談や電話などで申立者、東電の双方から意見を聞き、和解案を提示する。双方が受け入れれば和解が成立する。この流れを裁判外紛争解決手続き(ADR)と呼ぶ。県内では郡山市に同センター福島事務所、県北、会津、いわき、相双の4カ所に支所がある。
 
 ■「ADR限界感じた」 コミュニティー喪失認められず 小高から原町に避難の男性
 
 原発事故により避難区域となっている南相馬市小高区から同市原町区に避難している男性(72)は「ADRは一定の役割を果たしているが、限界がある」と話す。
 
 男性は平成26年に住民有志約600人とともに月35万円の精神的損害賠償とコミュニティー喪失の慰謝料などを求め、ADRで和解仲介を申し立てた。和解案では精神的賠償については特別な事情がある場合にのみ若干増額するとしたが、コミュニティー喪失の分については認められなかった。
 
 「住民同士の絆が失われたことへの判断が示されない。ADRの限界を感じた」と男性は肩を落とす。結局、訴訟団を組織し、昨年10月に国と東電に一人当たり2千万円の慰謝料を求め、福島地裁に提訴した。
 
 「本来、ADRは被災者に余計な負担を掛けないための手段ではなかったか。被災者に寄り添った体制にするべきだ」と語った。
 
 ■原発事故自殺賠償訴訟 勝訴2件、和解1件
 
 原発事故が原因で自殺したとして、遺族が東電に損害賠償を求めた訴訟は四例ある。このうち、福島地裁で判決が出た二件はともに自殺と原発事故との因果関係を認め、原告が勝訴した。
 
 避難中に自殺した川俣町山木屋の渡辺はま子さん=当時(58)=の遺族による訴訟では平成26年8月、東電に総額約4900万円の賠償を命じた。避難生活を苦に自殺した浪江町の五十崎(いそざき)喜一さん=当時(67)=の遺族による訴訟では27年6月、東電に約2720万円の賠償を命じた。
 
 一方、原発事故で将来を悲観して自殺した相馬市の酪農家、菅野重清さん=当時(54)=の遺族による訴訟は昨年12月、遺族と東電の和解が成立した。和解内容は明らかにされていないが、慰謝料は数千万円とみられる。避難区域以外の住民が自殺し、遺族に賠償金が支払われる初のケースとなった。
 
 飯舘村草野の大久保文雄さん=当時102歳=の遺族が27年7月、東電に損害賠償を求めて起こした訴訟は福島地裁で係争中だ。
 
 ■精神的賠償避難区域で差
 
 原発事故に伴う精神的損害賠償は避難区域により支払う額や期間が異なる。
 
 帰還困難区域の住民に対して、東電は平成29年5月までの分として一人当たり750万円を支払った。さらに原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が25年12月に策定した中間指針第四次追補で、原発事故発生後7年目となる29年6月以降分として700万円が追加された。追加分は長期帰還不能慰謝料に位置付けられる。
 
 居住制限、避難指示解除準備両区域の住民に対しては一律で30年3月まで支払われる。金額は一人当たり月額10万円。避難指示の解除時期を問わず、事故から6年後(29年3月)に解除する場合と同等の賠償額とする。政府は29年3月までに両区域の避難指示を解除する方針で、東電は解除後1年分を上乗せして支払う。
 
 原賠審の能見善久会長は避難指示解除が遅れた場合について「30年3月以降も賠償が続く」との見解を示している。26、27年に避難指示が解除された田村市都路町、川内村、楢葉町の旧避難指示解除準備区域の住民にも30年3月まで支払われる。
 
 旧緊急時避難準備区域は平成24年8月に打ち切られた。同区域が設定された自治体から、他の避難区域と同等の賠償を求める声が上がっている。
 
 ■財物賠償帰還へ不可欠
 
 家屋や土地などの財物に対する賠償は、帰還して自宅を再建したり避難先で自宅を購入したりする上で不可欠だ。
 
 東電による財物賠償は、6年間の避難指示で全損扱いとなる。帰還困難区域は全損扱いだが、居住制限区域や避難指示解除準備区域では事故から6年後より前に避難指示が解除されると、賠償額が一定の割合で差し引かれる。避難区域の線引きに絡み、住民の間には不公平感が漂う。
 
 川俣町山木屋や飯舘村蕨平、葛尾村の一部住民は、帰還困難区域に指定されていなくても同等に財物を全損扱いするよう原子力損害賠償紛争解決センターにADRを申し立てた。センターは全損扱いとする和解案を示し、東電は受諾した。
 
 ADRで全損扱いの和解案が出され東電が受諾する事例が出た一方、賠償額を一定の割合で差し引くとする基準はそのままだ。南相馬、川俣、葛尾、飯舘の4市町村は昨年11月、経済産業省に対し、財物賠償を避難指示解除の時期にかかわらず全損扱いするよう要望した。
 
 ■原子力損害賠償紛争解決センター福島事務所長 浜田愃氏に聞く 満足する回答引き出す
 
 原発事故に伴うADRをいかに迅速に進めていくのか。原子力損害賠償紛争解決センターの浜田愃福島事務所長に考えを聞いた。
 
 -原子力損害賠償紛争解決センター福島事務所は平成23年9月に開所した。これまでの成果は。
 
 「ADRは直接請求で解決できない被災者の訴えを法的観点からどう救済するかという視点で設けられた。センターは裁判を起こす前の一種の緩衝材のような機能を果たしていると思う。まだADRの利用方法の周知は完璧ではない。特に高齢者に対しパンフレットなどで知らせていきたい」
 
 -申立件数の推移をどう見るか。
 
 「原発事故から5年が近づき、損害賠償の請求は落ち着いてきた。現時点で請求できる人の多くが手続きを終えている。ただ、今後の動向は予測できない。東電は平成27年に営業損害や精神的損害について支払い方法を示したが、住民の声を適切に聞いていかなければ、また請求が増える可能性もある」
 
 -今後増加が予想される請求内容は。
 
 「区域の違いによる賠償格差を無くしてほしいという請求が増えるかもしれない。例えば家屋の損害について、居住制限、避難指示解除準備両区域の住民が帰還困難区域と同様の賠償を求める可能性はある。また、避難区域外の住民が区域内と変わらない損害を受けたと賠償を求めるケースも増えると考えられる」
 
 -申し立てを受け付ける体制はどうか。ADRの迅速化を求める声もある。
 
 「現在、センターには仲介委員が約280人、調査官が約190人いて、1年半ほど前からほぼ変わらない。特殊な事件を除き、平均して6カ月程度で和解案を提示できており増員の必要性は感じていない。ただ将来的に集団申し立てなど複雑な案件が増えると、体制を検討する必要も出てくる」
 
 -手続きやADRの制度自体の改善点は。
 
 「ADRの枠組みについては政府の検討課題だ。現場はいかに早く申立人に満足してもらえる回答を出せるかを考えている。次第に東電も損害賠償の条件を高くしつつある。それに対し知識やノウハウを積み重ねていきたい」
 
 -ADRが今後、被災者支援で果たす役割は。
 
 「損害賠償に関する局面は刻々と変わり、加害者の東電と被害者の申立人の間で意見が一致しない問題が必ず残る。訴訟の前に簡易な手続きで解決できるADRの価値というのは今まで以上に出てくると考える」
 
 はまだ・ひろし 広島市出身。一橋大商学部卒。民間企業勤務を経て、平成8年に佐賀県弁護士会に登録。20年から21年まで同県弁護士会長を務めた。24年に福島県弁護士会に登録替え。同年から原子力損害賠償紛争解決センターに勤務し、調査官、室長補佐を歴任した。26年12月から福島事務所長。68歳。
 
 

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