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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第8部 「一括」の先行き 立証の壁(47) 減収の裏付け困難 営業損害、交渉に溝

顧客回復が見込めない中、厳しい経営を強いられる武藤さん。東電の柔軟な対応を求める

 「(東京電力福島第一原発事故との)相当因果関係の確認にあたっては、事業実態や統計データ等を踏まえながら、賠償の可否を含め適切にお取り扱いを判断します」
 東電は昨年6月に示した営業損害賠償の新基準として、避難区域外は平成27年8月以降の年間逸失利益の2年相当分を一括して支払う方針を打ち出した。事業者向けの資料の補足文は丁寧な言い回しで適切な対応をうたう。しかし、1年が経過し、賠償交渉を巡り困難な立証を求められる現実が浮かび上がる。

 「この要求に応じられる店は町内にはないのではないか」。川俣町商工会長の紺野栄二さん(68)は商工会に寄せられた相談の報告を受け、顔をしかめた。東電が減収の裏付けとして商店主に課したのは「顧客リスト」の提示だった。
 避難区域外に位置する川俣町中心部の商店街は原発事故前、隣接する飯舘村や浪江町津島地区も商圏にしていた。川俣町で文具店を営む武藤昭一さん(72)は原発事故で売り上げが落ち込み、顧客も避難によっていつ戻るか分からない苦境に直面している。利益はほとんど出ておらず、賠償金が頼みの綱だ。
 「うちのような小さな店は信頼関係の積み重ねで商売が成り立っている。顧客リストなんてあるはずがない」と困惑する。補足文では「事業実態を踏まえながら」と言いつつ、懸け離れたような対応に不信感も募らせる。
 東電が避難区域内の事業所から受け付けた一括賠償請求は5月23日現在、約6000件で、9割強の約5800件が合意に達した。一方、避難区域外は約5100件のうち7割の約3700件にとどまり、残る約1400件は未決着だ。
 東電は「避難区域外は原発事故との因果関係の見極めに時間がかかる」と背景を説明する。商工業者からは、より柔軟な対応を求める声が上がるが、「個別事情を考慮し、真摯(しんし)に向き合いたい」と述べるにとどまる。

 風評を巡る賠償請求にも壁がある。会津若松市一箕町の白虎隊記念館は昨年10月、営業損害賠償の一括支払いを受けた。しかし、入館者数は原発事故前のほぼ半数の年間5万人前後で推移し、復調の兆しは見えない。
 運営・管理を担う早川広行さん(50)は一括賠償を受けた後、個別交渉による追加請求も検討した。しかし、東電は風評の認定基準を明示していない。「入館者数の減少だけでは『営業努力が足りない』と一蹴される可能性がある」と考え、諦めた。
 原発事故が引き起こした損害のはずなのに、なぜ負担や苦労を強いられるのか。震災から5年以上が経過し、「風評による減収を立証するハードルは、今後さらに高くなるのではないか」と懸念する。東電から支払われた賠償金が、早川さんには「手切れ金」にも見える。
 営業損害の一括賠償に向けた東電と被災事業者の交渉は依然、溝が残ったままだ。避難区域の精神的損害賠償を巡っては、一律に延長する方針が波紋を広げた。原発事故から5年以上が経過し、賠償に区切りを付けるかのような「一括」「一律」の先に何が潜むのかを追った。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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