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第8部「一律」の功罪 避難者切り捨ての懸念(50) 帰還か、とどまるか 進まぬ生活基盤回復

帰るか、とどまるか-。避難者の思いは政府、東電が打ち出す方針の間で揺れ動いている=会津美里町・宮里仮設住宅

 東京電力福島第一原発事故に伴う居住制限、避難指示解除準備両区域を抱える市町村で、両区域の解除に向けた協議が進む。南相馬市、川俣町、飯舘村で両区域の解除が控える。昨年から今年にかけては楢葉町の避難指示解除準備区域が昨年9月、葛尾村は今年6月12日に両区域が解除された。川内村は同14日に避難指示解除準備区域が解消された。
 避難区域がなくなれば人の出入りは自由になる。復旧・復興事業も進めやすくなる。帰還困難区域を除く避難区域を平成29年3月までに解除する政府方針は市町村との協議を加速させた。ただ、見返りのように精神的損害賠償を30年3月まで一律継続する新基準には疑問の声が上がる。

 会津美里町にある楢葉町の宮里仮設住宅では現在も約130人が生活する。石井紀長さん(75)の楢葉町の自宅はネズミに室内外を荒らされ、すぐに住める状態ではない。帰還に備えて業者に改修を依頼したが、作業開始までにこの先2年はかかると告げられた。
 原発事故前までネギやハクサイを栽培していたが、畑は荒れたまま。「戻りたくても戻れない実情を政府は分かっているのか」とやり切れない思いを口にする。
 葛尾村から郡山市の借り上げ住宅に避難する松本美浩さん(56)の自宅は旧居住制限区域にある。隣接する浪江町津島地区は帰還困難区域で、「自宅周辺に除染廃棄物が山積みされている。放射線への不安は拭えず、戻れる状況にない」と嘆く。

 原発事故直後に緊急時避難準備区域となり、23年9月に解除された広野町は今月、いわき市内の仮設住宅で暮らす避難者を対象にした調査結果を公表した。29年4月以降の住まいをどうするかを聞いた結果、回答した122世帯のうち19世帯が「町外に住居を構える」と答えた。
 戻ると回答した町民の胸の内は複雑だ。いわき市四倉町の鬼越仮設住宅で避難生活を送る日下満子さん(74)は広野町の自宅を改築し、年内に移る予定だが、「戻らされる状況に追い込まれている気がしてならない。生活インフラも完全に回復していないのに...」と割り切れなさを感じている。
 5月26日現在、広野町内で暮らす町民は人口の5割ほどの約2700人にとどまる。楢葉町の住民の帰還率も7%程度ほどだ。避難区域が解除されても、住民が戻るまでには相当な時間を要することを物語っている。
 政府や東電は賠償に区切りを付けて避難者に自立を迫る。一方で地元に戻っても生活基盤が回復していなければ新たな苦痛を強いられる。避難生活が長引き、避難先にとどまらざるを得ない子育て世代も少なくない。帰還か、とどまるか-。どの道を選んでも精神的負担は続く。
 「賠償の一律継続は、裏を返せば一律打ち切りともなりかねない。避難者の切り捨てにもつながらないか」。市町村の担当者や避難者から危ぶむ声も聞こえてくる。政府、東電が次々に打ち出す方針に揺れ続けたこの5年をたどれば、「個別に対応する」との答えを繰り返すだけでは不信感を拭い去れない現実がある。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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