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【震災から5年6カ月】産業再生 県産食品 信頼回復進む

 県産農産物を対象とした平成28年度の県の放射性物質検査で、7月末までに調べた4626点のうち野生の山菜2点を除く全てが食品衛生法の基準値を下回った。魚介類は27年度公表分から基準値超えはなく、県産食品の安全性に対する信頼回復が一歩ずつ進んでいる。浜通りにロボット関連など新産業を集積する福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想も動き始めた。

■農産物 基準超わずか2点
 
 県産農産物を対象とした平成28年度の放射性物質検査結果(7月末現在)は【表】の通り。
 対象は穀類(玄米除く)、野菜、果実など12食品群に分類される226品目。野菜は全食品群の中で最も多い172品目の1411点を調べ、全て食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)以下となった。
 西会津町と只見町で採れた野生のコシアブラが基準値を超えた。政府は原子力災害対策特別措置法に基づき、両町の野生コシアブラの出荷制限を県に指示した。
 県はほぼ全てが基準値以下となった要因について、「放射性物質の自然減衰に加え、塩化カリウム肥料の散布など放射性物質の吸収抑制対策が奏功した」とみている。
 一方、県内産米に含まれる放射性物質を調べる全量全袋検査では、県が8月19日までの1年間に調べた27年産の1049万5897点全てが基準値を下回った。基準値超の数は調査を開始した24年産以降、減少傾向にあり、初めてゼロとなった。

■ヒラメなど加わり 試験操業83魚種に 魚介類

 東京電力福島第一原発事故後に本県沖で続く試験操業は今月で開始から4年3カ月となる。対象魚種は6日現在、83魚種まで拡大し、水揚げ量は年々増加している。2日には主力魚種ヒラメの試験操業が始まり、本県漁業は本格操業開始に向け着実に前進している。
 ヒラメは8月にマアナゴ、ホシガレイなどと共に試験操業の対象魚種に加わった。ヒラメの試験操業初日の2日は相馬双葉、いわき市、小名浜機船底曳網の各漁協の漁船計47隻が出漁した。漁獲量はわずかだったが、放射性物質検査で放射性セシウムは検出下限値を下回り、県内の市場に出荷された。本格的な水揚げは10月以降となる見通しだ。
 試験操業は平成24年6月に始まった。当初3魚種だったが4年3カ月で83魚種まで増えた。27年の水揚げ量は24年の10倍以上の1512トンとなった。ただ、原発事故前の22年の1割に達していない。
 風評払拭(ふっしょく)や販路の回復、津波で壊れた施設の再整備など課題は多く、「常磐もの」の復活を目指す漁業者の努力は続く。

■産業再生を巡る動き(平成28年3月11日以降)
▼3月27日 国や県、関係事業者でつくる「福島新エネ社会構想」構想実現会議が初会合
▼3月30日 楢葉町で日本原子力研究開発機構(JAEA)楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ施設)試験棟の完成式
▼4月20日 県がロボット産業拠点施設「ロボットテストフィールド」と国際産学官共同利用施設を南相馬市、小型無人機(ドローン)離着陸訓練場を浪江町に設置すると決定
▼4月20日 相馬市松川浦でアサリ漁が6年ぶりに再開
▼4月30日 自動車部品会社サードが、ふくしまスカイパーク(福島市)で新型軽飛行機の研究開発拠点の起工式を行う
▼5月18日 全国新酒鑑評会の結果発表。県産日本酒が金賞受賞銘柄数で4年連続「日本一」
▼6月 9日 政府の原子力災害対策本部が本県沖ヒラメの出荷制限を解除
▼7月31日 高木毅復興相(当時)がイノベーション・コースト構想を法制化する意向を示す
▼8月24日 コメの全量全袋検査で平成27年産が全量、基準値を下回ったことが判明
▼9月 2日 ヒラメの試験操業がスタート。本県沿岸漁業の主力魚種の漁が5年半ぶりに再開

■27年度放射性物質検査 全て基準下回る

 本県沖の魚介類を対象とした県の放射性物質検査で、平成27年度に結果を公表した130種類・8541点全てが食品衛生法の基準値を下回った。
 基準値超の検体数は検査を開始した23年度以降、減少しており、初めてゼロとなった。検出下限値未満だった検体は全検体の91・2%を占め、初めて9割を超えた。
 28年度は8月末までに公表した3649点のうち、全ての検体で基準値以下となっている。

■イノベ構想 施設相次ぎ完成・着工

 浜通りにロボットや廃炉などの新たな産業を集積するイノベーション・コースト構想は、主要施設の完成や設置場所の決定が相次いでいる。
 楢葉町にある日本原子力研究開発機構(JAEA)の楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ施設)は試験棟が完成し、4月に本格運用を始めた。原子炉格納容器の一部の実寸大模型を備え、遠隔操作ロボットなどの技術研究の舞台となる。
 ロボット産業の拠点施設「ロボットテストフィールド」と国際産学官共同利用施設は南相馬市への建設が決まり、基本設計業者を選定している。付随する小型無人機(ドローン)離着陸訓練場は浪江町に整備する。両施設には平成29年度までの2年間で約135億円を投じ、災害対応ロボットなどの実証試験や性能評価を行う。
 今月7日にはJAEAが大熊町に整備する大熊分析・研究センターの施設管理棟が着工した。センターは計三棟で構成し、福島第一原発で発生したがれきや溶融燃料(燃料デブリ)など放射性物質の分析・処分に関する技術を開発する。29年度に一部で運用を開始する。

■医療と航空宇宙関連産業 県、企業誘致に力

 県はイノベーション・コースト構想と平行し、国内外での成長が見込める医療関連産業や航空宇宙関連産業の育成と企業誘致に力を入れている。
 11月には医療関連産業の拠点施設となる「ふくしま医療機器開発支援センター」が郡山市の県農業試験場跡地に開所する。医療機器開発から事業化までを一体的に支援する国内で初めての施設。医療機器の試験や安全性の評価、医師・医療従事者向けの機器操作法に関するトレーニングを行い、新規参入を支援する。
 県内の医療機器生産額は年々増えており、平成26年は約1300億円で全国3位となった。センターには医療関連企業の一層の進出を促す役割が期待されている。
 民間企業の動きも活発化している。8月には、県内に生産拠点を持つ菊池製作所(東京都八王子市)がドイツの医療機器開発会社と合弁会社を設立し、欧州での歩行支援ロボットの販売に乗り出した。郡山市では8月、医療・介護用ロボットスーツなどを製造する筑波大発のベンチャー企業サイバーダイン(茨城県つくば市)の生産拠点が完成した。
 航空宇宙分野では自動車部品会社のサード(愛知県豊田市)が4月、福島市の農道空港「ふくしまスカイパーク」に新型軽飛行機の研究開発拠点の建設を始めた。同社は平成32年までに実験機を完成させる計画を掲げている。

■ルポ ロボット産業 菊池製作所南相馬工場 産学連携で製品開発

 原発事故に伴う避難区域の大部分が7月に解除された南相馬市小高区。JR小高駅前から十分ほど車を西に車を走らせると、菊池製作所南相馬工場が見えてくる。医療、介護、廃炉産業などさまざまな分野で、大学などとの連携による技術開発を進めている。南相馬工場はイノベーション・コースト構想実現に向け、大きな役割を担う。
 南相馬工場は今年2月に本格稼働し、グループ企業「イノフィス」の製品「マッスルスーツ」を製造している。人工筋肉の収縮を利用し、重い物を持ち上げる時の負担を軽減する装置で、介護の現場などで既に活用されている。産学連携によって手術支援ロボットや肘の震え防止装具など、新たな製品を次々と生産する予定だという。
 工場では地元採用の約20人が勤務している。正確な手さばきで組み立て作業を行っていた保良侑奈(やすら・ゆな)さん(19)=南相馬市原町区=は昨年4月に入社した。「最先端のものづくりに携わり、やりがいを感じる。小高は避難している人も多いが、若い人の働く姿が帰還を考えるきっかけになればうれしい」と話した。
 菊池製作所は8月、ドイツの医療機器開発業SNAP社と現地に合弁販売会社を設立し、パーキン病患者ら向けの歩行支援ロボットの市場づくりに取り組んでいる。生産は南相馬工場が拠点となる予定。県内企業への部品発注の機会が増えるとみられ、地域経済への波及効果も期待される。高橋幸一取締役(54)は「地元のためになる会社でありたい。これからもさまざまな新しいものづくりに取り組んでいく」と言葉に力を込めた。(南相馬支社兼浪江支局長・伊東 一浩)

カテゴリー:震災から5年

ゲルマニウムの半導体検出器を使った農産物の放射性物質検査

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