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(37)技を極める 世界一の絹 「ともしび」守る

世界一薄い絹織物「妖精の羽」。斎藤は伝統産業復活の切り札と期待する

 その羽は今、福島から世界に大きく舞い上がろうとしている。川俣町の斎栄織物が開発した絹織物「妖精の羽(フェアリー・フェザー)」。世界一薄く軽やかな風合いの生地はファッション界はもとより、医療や科学分野からも「未来の新素材」として注目を集めている。
 川俣は古くから絹織物業で栄え、大正時代には全国の生産量の1割を占めた。その後は安価な海外産や化学繊維に押され、町内に響いたにぎやかな機織りの音は遠い記憶になりつつある。絹の産地のともしびを消してなるものか-。斎栄織物常務の斎藤栄太(35)は社運を懸けて生み出した妖精の羽を手に国内外を駆け回り、伝統産業の復活を目指す。

 「お前が戻らなければ会社を閉める」。栃木県の白鷗大4年生だった斎藤は、斎栄織物社長の父泰行(72)=県織物同業会長=から呼び出され、そう告げられた。古里の絹織物業を取り巻く環境は年々厳しくなっているという。切羽詰まった父の顔を前に、会社を継ぐと心を決めた。
 入社してすぐ、生き残るためには新たな市場を開拓する必要があると感じた。当時の取引先は国内と米国のみ。国内では絹製品が高級品で一般になじみが薄く、売れ行きは落ち込んでいた。売り上げの2割ほどを占めていたが米国への輸出は、リーマン・ショックで一時止まった。正装として絹の礼服を着る機会が多い欧州に目を付ける。平成21年2月から、ファッションの本場であるイタリア・ミラノなどの展示会に参加し、簡単な英語を交えて「川俣シルク」をPRした。
 地道な営業努力が実を結ぶ。23年5月、英語で書かれた1通のメールが届く。3カ月前の商談会で会ったイタリアの大手ブランド「ジョルジオ・アルマーニ」の担当者からだった。「生地を女性用の春物のコートに使いたい」。胸が高鳴った。
 海外の大手ブランドから国内の一企業に直接、発注があるのは極めて珍しかった。日本で生まれた絹製品が持つ繊細な光沢、しなやかさが評価された。「欧州でもやれる」。確かな手応えを感じ取った。(文中敬称略)

 福島には技がある。ものづくりの現場で、勤勉な県民がこつこつと積み重ねてきた宝物だ。5年半前の大禍に負けず、産業の復興を支えている。そして今、新たな技を豊かな古里づくりに生かそうと奮闘する若い力、新しい力が芽吹き始めた。それぞれの挑戦を追う。

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