■双葉町、1月から準備宿泊
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生から11日で11年となる。避難区域が設定された各市町村では施設整備などで復興・再生の動きが着実に進んでいる。帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)は今春から順次避難指示が解除される予定で、準備宿泊が始まるなど帰還への動きが本格化している。
■双葉町
双葉町の人口は1月31日現在、5633人。原発事故に伴い、いまだ全町避難が続く。
町内の復興拠点は約555ヘクタール。6月の避難指示解除を目指している。JR常磐線双葉駅周辺では住環境や町役場仮設庁舎の建設が進むほか、インフラ整備などが本格化している。
1月から住民帰還に向けた準備宿泊が始まった。3月2日までに延べ20世帯27人が準備宿泊の申請をしている。
■浪江町
浪江町の人口は2月28日現在、1万6102人。町内に居住しているのは1月末現在で1811人となっている。
町の大部分が帰還困難区域となっており、町内には立ち入り規制を示す看板も少なくない。室原、末森、津島に設けられた復興拠点では2023(令和5)年春に避難指示解除を目指す動きが進んでいる。準備宿泊は今秋に始まる見込み。
■大熊町
大熊町の人口は2月28日現在、1万147人。町内に居住しているのは、同1日時点で923人となっている。昨年12月3日に準備宿泊が始まった。
JR常磐線大野駅周辺を中心とした復興拠点の避難指示解除は、今春に予定されている。
同駅西側では2024(令和六)年夏をめどに、産業交流施設や商業施設の開所を目指す動きが出ている。
■南相馬市小高区 小高診療所が開所 園芸団地、今春一部供用開始
南相馬市小高区の全域に出されていた避難指示は2016(平成28)年7月に帰還困難区域を除き解除された。1月末現在の人口は3827人。原発事故発生前は1万2842人が住んでいた。
区内では、昨年12月に旧小高病院跡地に市立総合病院付属小高診療所が開所。市は将来的に有床化を目指している。水稲やキュウリなどを栽培する園芸団地の整備が進む。今年春の一部供用開始、来年春の全面開所を予定している。
■葛尾村
葛尾村の人口は3月1日現在、1330人。村内に居住しているのは、451人となっている。
2016(平成28)年6月に村の大部分の避難指示が解除されたが、村北東部に位置する野行地区は村唯一の帰還困難区域となっている。同地区の復興拠点では、昨年11月30日に準備宿泊が始まり、今春の避難指示解除を目指している。
■田村市都路町
今年1月31日現在の田村市民の避難状況動向調査によると、同市都路町の居住人口は2096人で、帰還率は91・5%となっている。
農業再興に向けた取り組みが進む。2021(令和3)年9月に地見城ライスセンターが完成。別の米流通合理化施設とライスセンターが古道地区で建設中だ。
アウトドア施設「グリーンパーク都路」は、クラフトビール醸造所やキャンプ場がにぎわい、活性化と交流の拠点となっている。
■川俣町山木屋地区
川俣町山木屋地区の人口は3月1日現在で695人。居住者は340人となっている。
農業復興に向けて新たな穀類乾燥調製施設の建設が進んでおり、今年秋に本格稼働する。JAふくしま未来が運営を担う。約60ヘクタール分のコメの乾燥調製ができ、山木屋地区を中心に生産された穀類を受け入れる。
「復興の花」として特産化が進んでいる熱帯アメリカ原産の「アンスリウム」の出荷も盛んになっている。
■飯舘村
飯舘村の人口は3月1日現在、4981人。居住人口は1476人となっている。
帰還困難区域の長泥行政区の復興拠点は、2023(令和5)年春の避難指示解除を目指している。村は今年秋ごろまでに準備宿泊を始める予定で、住民や国との協議を進めていく。
「居住促進ゾーン」では整備が進み、住民が帰還した際の拠点づくりも加速している。
■川内村
川内村では初の村産ワインの醸造が順調に進み、16日に披露される見通しになった。ブドウ畑「高田島ヴィンヤード」で収穫したブドウを使い、かわうちワイナリーで醸造した。村は村内全世帯にワインを贈り、完成の喜びを分かち合う。
昨年4月に開校した義務教育学校「川内小中学園」では最新の機材を活用した教育が行われている。
村の人口は3月1日現在、2418人で、1995人が村に戻っている。
■広野町
広野町が旧広野幼稚園を改修して整備する文化交流施設は、4月の開所に向け工事が進む。町内で見つかった化石や文化財の展示室、東大などの研究室が入る。体験学習やワークショップを催す多目的ホールもある。
町振興公社が進めるバナナ栽培では、昨年末からハウス内の温度管理に地中熱の活用を始めた。県内外から視察が相次いでいる。
2月末現在の人口は4684人で、町内居住者は4217人。
■楢葉町
楢葉町が農業再生の柱に位置付けるサツマイモの栽培面積は新年度、約50ヘクタールに拡大する。六次化商品開発の動きも進んでいる。
4月に楢葉北、楢葉南両小が統合し、楢葉小が開校する。町は今月25日、町コミュニティセンターで閉校式を行う。楢葉小の校舎は楢葉南小の旧校舎を活用するため、児童は現在学んでいる楢葉中校舎から移動する。
1月末現在の町内居住者は4152人で、住民基本台帳人口は6671人。
■富岡町
富岡町の夜の森地区を中心とした復興拠点約390ヘクタールは、1月に立ち入り規制が緩和された。4月11日に準備宿泊が始まり、来年春の避難指示解除に向けた動きが本格化する。
福祉・介護の複合拠点施設「共生サポートセンターさくらの郷」は4月9日に開所する。町は福祉の充実による帰還の促進につなげたい考えだ。
3月1日現在の町の人口は1万1995人で、町内居住者は1846人。
■拠点外除染 2024年度にも開始 政府方針範囲、完了時期は未定 復興拠点外
東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域のうち復興拠点から外れた地域について、政府は2024(令和6)年度にも、対象の全町村で除染を開始できるよう準備する方針を示した。ただ、除染の具体的な範囲、完了時期などの詳細は決まっていない。政府は新年度、地元町村と協議した上で、住民の帰還意向の確認などを進める。
帰還の意向確認や除染が済んだ場所から段階的に避難指示を解除していく。地域によって、住民の帰還の判断や放射線量が下がるまでの時間に差が出る状況も想定されるため、「意向確認」「除染」「避難指示解除」を複数回繰り返す方針。
除染は帰還を希望する住民の自宅に加え、生活に必要な道路などの生活圏でも実施する方向で検討している。政府は2022年度当初予算に、復興拠点外への住民帰還に向けた関連事業費として14億円を計上した。
帰還困難区域のうち復興拠点外の地域を巡っては、同区域を抱える富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾の5町村でつくる協議会が再三にわたり、避難指示解除の方針を示すよう政府に求めてきた。政府は昨年8月末、住民の帰還意向を個別に確認した上で帰還に必要な箇所を除染し、2020年代に希望者の帰還を目指す方針を示した。
地元町村は復興拠点外の方針が示されたことを評価する一方、政府の方針には戻る人がいない地域の扱いの方向性は示されておらず、除染した上での帰還困難区域全域の避難指示解除を引き続き訴えている。
■復興庁、創設から10年 司令塔機能の向上不可欠
政府は2021(令和3)年度から5年間を第二期復興・創生期間に位置付け、東京電力福島第一原発事故の避難指示解除区域の再生や帰還困難区域の環境整備などに力を入れている。財源が限られる中、今後も長期にわたる被災地の復興対応に向け、復興庁の司令塔機能の維持・向上が一層求められている。
第二期復興・創生期間初年度の事業として、復興庁は6216億円の予算を充て、被災地への移住・定住の促進事業や営農再開を加速する「高付加価値産地展開支援事業」などの課題解決に向けた取り組みに力を入れた。産業復興の中核となる国際教育研究拠点の整備については、運営を担う「福島国際研究教育機構」の設立を目指すなど準備を本格化している。
一方、被災地で高齢化や生活環境への不安などは根強く、帰還困難区域の復興拠点や復興拠点から外れた地域の避難指示解除後もどれだけの住民が戻るかは見通せない。今後は環境整備に加え、コミュニティー再生や産業再生などで新しい取り組みが必要になるとみられる。国は同期間の復興事業費として約1兆6千億円を確保しているが、復興庁は「直ちに財源が不足する状況にない」と上積みなどは想定していない。
被災地からは創設10年となった同庁の司令塔機能の弱体化や復興事業の先細りなど「霞が関の風化」を懸念する声も上がる。これまでよりさらに複雑化する本県復興の課題に対応するためには、岸田文雄首相が繰り返す「政府一丸」の体制や柔軟な予算確保などが必要不可欠となっている。