東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から十一日で十一年となるのを前に、岸田文雄首相は九日、福島民報社など被災三県の新聞社の合同インタビューに応じた。原発事故に伴う帰還困難区域については「各自治体の個別の課題や要望を丁寧に伺いながら、解除に向けた取り組みをしっかりと前に進めたい」とし、特定復興再生拠点区域(復興拠点)内外を含めた将来的な全域解除への取り組みを加速させる考えを強調した。(3面にインタビュー詳報)
原発事故から十一年となるが、設定された避難指示区域のうち残る帰還困難区域(約三百三十七平方キロメートル)はいまだ大部分の解除の見通しが立っておらず、原発事故復興の最重要課題の一つとなっている。
岸田首相は課題となっている復興拠点外の対応について、二〇二〇年代に希望者の帰還を目指すとした政府方針を踏まえ、「十一年が経過した中、(住民の)自宅に帰りたいという切実な思いに応えたい」と政府のトップとして帰還に必要な除染などを急ぐ考えを示した。一方、帰還意向がない住民の土地・家屋への除染などの扱いについては「自治体との協議を重ねつつ検討する」と述べるにとどめた。
今春から来年にかけて避難指示が解除される復興拠点については「住まいの確保、医療・介護、買い物の環境など、住民が安心して生活できる環境整備を進める」との方針を示すとともに、新たな住民の移住・定住促進、新産業の創出なども重点施策として挙げた。
■処理水処分丁寧に説明 来年春の開始時期「変更ない」
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から十一年となるのを前に福島民報社などの合同インタビューに応じた岸田文雄首相は東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出について「国内外の幅広い人々に対して丁寧に説明を続けるとともに、政府を挙げてあらゆる対策を行う」と理解醸成への対応を強化する考えを説明した。一方、「理解が得られなくても処分を強行するのか」との福島民報社からの質問には明言を避けた。東電などが「日程ありきではない」とした開始時期についても「変更はない」と従来の姿勢を崩さなかった。(聞き手・編集局長 安斎康史)
-福島第一原発の処理水を海洋放出する政府方針について、県民をはじめ全国の関係者から幅広い反対の声がある。行動計画も不十分との指摘がある中、現状をどう受け止め、今後具体的な対策を実行するのか。理解が得られない場合でも海洋放出を強行するのか。
「基本方針決定以降、国内外の処理水処分の必要性、安全性について説明するとともに対策などの意見交換を重ねてきた。昨年末にまとめた行動計画では、安全性を確保し、分かりやすく伝えることで安心を醸成すると定めた。水産業者の販路拡大支援など風評対策も幅広く盛り込んだ。今後も時間の許す限り、現場に足を運び、生の声を伺いながら必要となる対策を機動的に実行していきたい。政府を挙げてあらゆる対策を行い、できる限り多くの人の理解を得ていく」
-海洋放出開始は来年春とされるが日程についてはどう考えているか。
「従来から説明している方針、プロセスに従って取り組みを進めていると承知しており、特段変更はないと聞いている。いずれにせよ地元の皆さんの意見を聞きながら丁寧に取り組みを進めたい」
-帰還困難区域の避難指示解除が今春から動き出すが、自治体機能の維持、将来のまちづくりへの考えは。
「復興拠点については、大熊、双葉、葛尾の三町村で今年春以降、富岡、浪江、飯舘の三町村で来年春ごろの避難指示解除を目指している。各地域の復興のため、住まいの確保、医療・介護、買い物など住民が安心して生活できる環境整備を進める。地域社会を担う活力の呼び込みに向けて、新たな住民の移住・定住促進、新産業の創出にもしっかりと取り組まなくてはいけない」
-特定復興再生拠点区域(復興拠点)外の地域について、全域の除染と家屋解体を求める地元の声にどう応えるかを伺う。
「復興拠点外の地域は、まずは二〇二〇年代をかけて帰還意向のある住民が全員帰還できるよう帰還に必要な場所を除染し、避難指示解除を行う方針を決定した。自宅に帰りたいという切実な思いに応えていきたい。帰還意向がなく、残された土地、家屋などの扱いは自治体との協議を重ねつつ検討を進める。将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除する復興・再生に責任を持って取り組む」
-第二期復興・創生期間の二年目に入る中、被災地を安定して支えていくための人員、財政両面での枠組みの在り方をどう考えるか。
「被災三県を訪問する中、地震や津波の被害を受けた地域では心のケアなどの被災者支援、産業生業の再建などの残る課題に対応していかなくてはと感じた。原子力災害を受けた福島では帰還、移住の促進をはじめ、福島国際研究教育機構の整備など中長期的な対応が必要だ。引き続き復興庁を中心に必要な予算を確保しつつ、政府一丸となって取り組んでいく」
-岸田首相が掲げるデジタル田園都市国家構想に被災地を戦略的に組み込んでモデルケースにしてはどうか。
「大熊町のイチゴ栽培農場のようにデジタル技術の活用で新たな魅力と雇用が生まれている事例もある。構想はデジタル技術の活用で地域の個性を生かしながら課題を解決する考え方に立っている。スマート農林水産業、リモートワーク、オンライン診療、ギガスクールなど先導的なデジタルサービスの実装を応援し、復興につなげたい」