新型コロナウイルス感染症の法的な位置付けが「5類」に移行し、飲食、観光業界を中心に経済活性化が期待される新たな日常が8日、始まった。福島県内でも飲食や観光関係者らがコロナとの共生に向けて動き出した。3年近く設置した感染対策のビニールカーテンを外した飲食店があり、宿泊施設の中にはマスク無しで接客するスタッフの姿が見られた。ただ、医療費が一部自己負担になり、感染者数の全数把握が医療機関での定点把握に変更され、県民からは「どこで、どれだけ流行しているか分からなくなる」と不安の声が漏れる。
福島市栄町の「すし処辰巳」では、店主の熊倉喜人さん(71)がランチ営業前に板場とカウンター席の間に設置していたビニールカーテンを約3年ぶりに外した。視界が広がった店内を見渡し、「板場から直接握りたてのすしを提供できる上、お客さんの表情も見られる」と晴れ晴れとした様子だった。
マスク着用ルールが緩和された3月中旬以降、客足はコロナ禍前の水準に戻ってきた。売り上げで大きな割合を占める宴会の予約も増えており、停滞から脱却しつつあると実感している。ただ、感染対策のためのタッチパネル注文システムや空気清浄機の導入費などの借入金があり、返済への不安を抱える。それでも「これから頑張る」と前を向く。
当面は従業員のマスク着用や手指消毒のアルコール設置を続ける。感染者が少なくなれば、マスクを外して笑顔で客を迎えたいと考えている。「安心して過ごしてもらえる店にしたい」と語った。
会津若松市東山温泉の原瀧では、フロント業務を担当する従業員はマスクを外して接客し、多くの宿泊客を出迎えた。総支配人の平賀茂美さん(68)は「お客さまが最初に会うのがフロントのスタッフ。安心感を与え、笑顔が伝わらなければならない」と話す。
入り口の検温器と、フロントや宴会場に設置していたアクリルパネルを撤去した。消毒液は設置を続け、食品衛生の観点から調理や配膳に関わる従業員は引き続きマスクを着用する。平賀さんは「少しでも早く、サービス業の本来の姿である表情の見える接客に戻したい」と話した。
最大9連休となった大型連休が終了し、職場や学校に向かう人たちの姿が見られた。福島市のJR福島駅東口では雨が降る中、マスクを着用する人の姿が目立った。
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「5類」移行で医療費の一部が自己負担となり、受診先には自身で連絡する必要がある。南相馬市原町区の農業門馬重傚(しげのり)さん(77)は「感染した場合の受診の流れや移行による変更点をまだ理解しきれていない。引き続き、注意が必要なことに変わりはない」と警戒する。
新規感染者数は全数把握から定点調査に変更された。郡山市私立幼稚園・認定こども園連合会長の阿部光浩さん(57)は「どこで流行しているか把握しづらい」と不安を口にする。理事長を務める市内の認定こども園こはらだ幼稚園は8日からマスク着用を任意としたが、ほとんどの園児が着けて登園した。園児や家族の感染、体調不良は報告を求めている。「感染者が増えている地域もある。園内での手洗い、うがいや消毒は続けたい」と気を引き締めた。