【パリで本社報道部副部長・鈴木宏謙】船上で国旗を振り、ウエーブを誘う。伝統衣装を身にまとったチームもあった。国や地域を代表する誇りを表す選手団と、川岸から歓声や拍手を送る観衆。パリ中心部のセーヌ川には、2021年東京五輪では見られなかった祭典らしい光景があった。
川べりの観覧席に向かう道は治安対策のための交通規制や持ち物検査などの影響で、開始2時間ほど前からごった返していた。仮設スタンドには開催国や欧州だけでなく、アジア、アフリカや南米など遠方からの旅行者が陣取り、記念撮影や談笑に興じていた。
新型コロナ禍対応に追われた前回大会と違い、マスク姿の人は見当たらない。競技場の枠を出て、都市そのものを舞台とする斬新な試みは、スポーツの価値と歴史や芸術をはじめとする「花の都」の多様な魅力を世界に示した。
東京五輪は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの「復興五輪」を理念に招致された。ただ、大半の競技は感染対策のため無観客となった。聖火リレーがJヴィレッジ(福島県楢葉・広野町)を出発し、野球・ソフトボール競技が福島市で行われたことを世界のどれだけの人が覚えているだろうか。制約のない華やかな幕開けに立ち会い、3年前に感じたもどかしさが頭をよぎった。
セレモニーが佳境に向かうにつれ、雨が強さを増した。耐えかねて席を立つカップルや両親にぐずり出す幼い子どもいた。笑顔一色ではなくとも、会場に足を運び、目にした体験は長く記憶にとどまるだろう。
日本オリンピック委員会(JOC)によると、日本選手団は選手114人をはじめ、本部役員、監督、コーチら177人が開会式に臨んだ。福島県関係選手ではバドミントンの女子シングルスの大堀彩(27)=トナミ運輸=、女子バレーボールの福留慧美(26)=デンソー=が参加した。式から一夜明けた27日は競技がいよいよ本格化した。バドミントンをはじめ、福島県関係選手も序盤から相次いで実戦を迎える。選手たちの戦いぶりと現地の熱気を伝えていく。