規格外や余剰生産された新鮮な農産物を寄付で集め、定期的に子ども食堂に届けるプロジェクトが会津地方で始まった。福島県会津若松市のオフィスビル「スマートシティAiCT(アイクト)」の入居企業でつくるグループが農家と子ども食堂をつないだ。提供できる野菜の数量をインターネット上で見える化し、必要とする食堂に届ける。食品ロス削減と子どもへの食の支援の両立を目指し、同様の仕組みを全県に拡大する構想も温めている。SDGsの理念にも響き合い、注目されそうだ。
子ども食堂には賞味期限の長い加工食品の寄付が多く、新鮮野菜を提供できるのが特徴。アイクトに入るTOPPANデジタル(東京)などでつくるグループが新規事業として立ち上げた。兼業農家でもある同社の佐藤綾子さん(49)=喜多方市=が食品ロスの現状を普段から目の当たりにしていたのがきっかけだった。
地元野菜を住民に味わってもらおうと多くの農家が、道の駅に出荷している。ただ、袋詰めできないほど大きく育ちすぎたり、棚に並び切れないほど多く作りすぎたりした野菜や果物は消費者の手に届くことなく戻され、廃棄されることもある。味や栄養に問題がなくても食べてもらえない現状にもどかしさを感じていた。この春、地元採用で入社した。地域課題の解決に取り組むアイクトとデジタル分野に長[た]けた同社の強みを生かし、事業化に乗り出した。
佐藤さん自身も所属する道の駅あいづ湯川・会津坂下農産物等直売所出荷者協議会(湯川村)と、県内約130の食堂が加盟するふくしまこども食堂ネットワーク(郡山市)と取り組む。道の駅のバックヤードに専用ボックスを設置し、農家から農産物を集める。ネット上で構築したシステムで品目や数量を記録する。子ども食堂側はスマートフォンなどで記録を確認し、希望する食材を火、金曜日の週2回受け取ることができる。
ふくしまこども食堂ネットワークによると、食堂で提供される食は4分の3が購入、4分の1が寄付で賄われる。寄付の食材は缶詰などの加工品が中心だという。物価高の影響で食費は増え、運営に苦慮する食堂は少なくない。共同代表の熊田ひろみさん(60)=須賀川市=は「県内の他の道の駅にも協力を呼びかけ、同様の取り組みが各地に広がってほしい」と期待する。
約280人が所属する出荷者協議会にとって、道の駅に出荷販売できない農産物の取り扱いは長年の課題だった。近所にお裾分けし、さばき切れない時は畑の肥料に活用していたが、近年は獣に畑を荒らされる被害が出始めているという。協議会長の石田晴彦さん(72)=会津坂下町=は「これまでは泣く泣く廃棄せざるを得なかった。子どもたちが食べて笑顔になってほしいとメンバーの農家もこの取り組みを歓迎している」と語った。
佐藤さんは「育てた農産物を食べてもらえると農家のやりがいにつながる。先端技術で生活を豊かにするアイクトの意義にもかなう」と強調している。
道の駅あいづ湯川・会津坂下農産物等直売所出荷者協議会と、ふくしまこども食堂ネットワークは21日、湯川村の同道の駅で今回のプロジェクトに関する連携協定を締結した。