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市街地発砲 「緊急銃猟」開始1カ月 対応困った 福島県内市町村熊出没増懸念 マニュアル策定進まず

2025.09.28 11:08

 熊の出没や被害が多発する中、福島県内の市町村が1日に始まった「緊急銃猟」への対応に苦慮している。国が自治体に推奨するマニュアルを策定するとしている42市町村のうち、41市町村は整備できていない。生活圏に侵入する緊急時に迅速な駆除を図る制度だが、発砲許可の判断基準や住民の安全確保、警察・猟友会との調整など整理すべき事柄が多いためだ。木の実が凶作の今秋は冬眠を控えた熊が生活圏に出る事態が増えると懸念され、専門家は県による市町村の支援などが必要と指摘する。


■戸惑い

 従来は市街地に熊が出没しても、警察官の命令などがなければ発砲できなかった。人への危害が迫った場合、市町村長の判断で猟銃による駆除が可能となった。環境省は7月に運用ガイドライン(指針)を公表。平時の準備や手順を示すマニュアルの策定を自治体に促している。

 福島民報社が59市町村に聞き取った結果は【表】の通り。策定済みは福島市のみ、策定中も12市町村にとどまった。田村市は大型野生鳥獣出没対応マニュアルを策定しており、今後、緊急銃猟に合わせた内容への改正を検討している。

 玉川村は農作物被害を念頭にイノシシや小動物に対応するハンターを確保しているが、熊を専門に扱う狩猟者はいない。村産業振興課はハンター派遣などへの県の支援を求めている。郡山市園芸畜産振興課は「どんな場所や状況なら銃猟を許可できるのか、関係機関と共有する必要がある」と指摘。国が開く訓練に出て情報を集める構えだ。

 熊の人身被害が今月に相次いだ喜多方市は10月1日の策定を目指している。ただ、市市民生活課は「市が発砲を認めてもハンターは人や建物に損害が起きる恐れがあれば拒否できる。運用面のハードルは高い」と実効性を疑問視する。

 東京電力福島第1原発事故の被災地は、ハンター確保に苦悩している。葛尾村は銃猟ができる9人の半数超が村外に避難している。猟銃を持っての移動は銃刀法で制約され、緊急銃猟には村内に住む有資格者で対応するほかない。村地域振興課は「急を要する場面で素早く駆除できるかは不透明だ」とみている。


■責任の所在

 緊急銃猟で実動部隊を担うハンター側は、跳弾や誤射で人身・財物に被害が出た際の責任の所在などを懸念する。

 「市町村長が発砲を認めても現状では引き金を引けない」。県猟友会の芥川克己会長(76)=会津坂下町=は心境を明かす。動き回る熊を正確に狙うには、高い技術と豊富な経験が要る。通行規制や避難誘導が行われたとしても、市街地は銃弾が想定外の方向に跳び、思わぬ損害が出ないかを危惧する。

 環境省は「安全を確保した上で発砲するので、負傷者の発生は想定しにくい」としている。ただ、2018(平成30)年には北海道砂川市で、市の要請でヒグマを駆除したハンターが道公安委に免許を取り消された。

 県猟友会によると、ライフル銃や散弾銃を使う第1種銃猟免許の保有者は県内に約1800人いるが、減少傾向で高齢化も進んでいる。芥川会長は「扱える銃の種類を決めるなど運用には警察を交えた綿密な打ち合わせが必要だ」と強調。「銃を扱える専門職員を県が確保し、市町村に派遣する仕組みも必要ではないか」と指摘する。


■共通認識を

 熊の生態に詳しい福島大食農学類の望月翔太准教授(野生動物管理学)は関係機関の役割分担や連絡体制、危険性の判断基準、責任の所在などを整理したマニュアルは制度の円滑な運用には欠かせないと強調。市町村と警察、ハンターの3者が共通認識を持つには、緊急銃猟が可能な地域を示した地図を作ることも有効と提案する。

 県によると、今年度の県内の熊の目撃情報は8月末までに661件。9月も1日4、5件の頻度であり、過去最多だった2023(令和5)年度の709件を超えるのは確実だ。今秋は熊が好むブナの凶作が見込まれ、人里に下りる個体の増加が懸念される。望月氏は人的被害が増える恐れは十分あるとした上で「県が専門家を派遣するなど市町村を支える仕組みが必要だ」と提言する。

 県は参考資料として、環境省の指針を解説し、内容をより具体化した「手引」を10月にも作成し、周知する。浜、中、会津の三地方で緊急銃猟制度に理解を深めてもらう机上訓練や実地訓練を開催する。


※緊急銃猟 9月1日施行の改正鳥獣保護管理法で制度化された。(1)熊などの危険鳥獣が人の日常生活圏に侵入または侵入の恐れがある(2)人命・身体への危害を防止するため、緊急に対応が必要(3)銃以外の方法では的確・迅速な捕獲が困難(4)住民や第三者に銃猟による危害が及ぶ恐れがない―の4条件を全て満たした場合に、市町村長が銃猟による駆除の可否を判断し、捕獲者に委託できる。