東日本大震災アーカイブ

【震災から4年6カ月】「住民帰還」一歩ずつ

 東京電力福島第一原発事故により避難区域が設定された12市町村はそれぞれ、地域復興に向け着実に歩みを進めている。今月5日には楢葉町の避難指示が解除されたほか、南相馬、川俣、葛尾の3市町村では住民帰還を見据えた準備宿泊が行われている。帰還困難区域を抱える自治体では町内に復興拠点を整備する取り組みが始まった。ただ、さまざまな課題が山積し古里にいつ戻れるのか見通せない。避難者からは損害賠償の充実を求める声が上がっている。
 
◆楢葉町 全域避難で初の避難指示解除 地域再生へ試金石
 
 避難指示が解除されたのは田村市都路地区、川内村の一部に次いで三例目だが、全域避難の市町村では初めてとなった。対象人口は約7400人とこれまでで最も多い。町の地域再生に向けた取り組みに対し、今後、避難指示解除を迎える双葉郡内の他の町村から注目が集まる。
 町内には復興の槌音がひびく。町は中心部に整備を進める「コンパクトタウン」で、来年2月に開所予定の県立大野病院付属ふたば復興診療所の造成工事を行っている。スーパーと飲食店からなる公設共同店舗の平成28年度中のオープンを目指す。津波被災者向け災害公営住宅の建設工事も始まった。
 JR竜田駅東側の再開発地区にホテルの立地が決まり、29年度中にオープン予定。福島第一原発の廃炉研究拠点となる日本原子力開発機構(JAEA)の楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ施設)は10月に一部業務を開始する。
 町の基幹産業である農業の再生に向け、来年から水稲の作付けを本格化する。今年、初めて出荷されたトルコギキョウが特産物になると期待される。
 ただ、避難指示解除後、町民がどの程度、帰還するかは見通せない。電気、水道などは復旧したが、日々の生活に不可欠な医療施設や商業施設がどの程度再開するか不透明なことが影響している。飲料水の安全性や放射線に対する町民の不安も依然根強い。
 
◆広野町 防災拠点整備を計画
 
 震災前に約5500人いた町民のうち、町内で暮らすのは約半数にとどまる。一方、福島第一原発の廃炉作業に従事する約3千人が町内で生活している。
 帰還をためらう住民から「買い物ができる店舗や医療機関が少ない」「原発に近い町に戻りたくない」といった声が上がる。原発事故による町民への精神的損害賠償は平成24年8月で打ち切られた。町は住民の帰還促進に向けた生活再建支度金の支給などを国に求めている。
 大手建設会社がJR広野駅東側に6階建てのオフィスビル「広野東口ビル(仮称)」の建設を進めている。町は6号国道沿いにヘリポートを備えた防災拠点の機能を担う道の駅の整備を計画している。こうした施設整備を通じ、古里に町民を呼び戻したい考えだ。
 
◆川内村 「解除」来月にも議論
 
 村東部に設定された避難指示解除準備区域の解除時期について、村の検証委員会は10月にも議論を始める。国による追加除染の結果などが判断材料となる。
 人口約2700人のうち、帰村したのは6割の約1630人。このうち50歳以上が7割を占め、若い世代や子どもの帰還をいかに進めるかが課題となっている。
 住民帰還に向けた基盤整備では399号国道沿いに災害公営住宅が完成し、6月から入居が始った。スーパー機能を備えたコンビニエンスストアを中核とする村複合商業施設の建設も進み、平成27度内にオープン予定。11月には特別養護老人ホームが開所する。田ノ入工業団地の造成工事が間もなくスタートする。
 
◆田村市 都路住民登録6割超
 
 市内都路町の旧避難指示解除準備区域に戻ったのは8月末現在で71世帯、207人。住民登録者全体の6割を超えた。
 商業施設が再開し、288号国道の通行規制が緩和されたことなどから帰還が進んだとみられる。
 市は都路町古道地区に、高齢世帯などの入居を想定した市営住宅を12戸建設する。地元の要望を受け、古道、岩井沢両小を統合する方針。平成29年度から古道小校舎で授業を始める方向で準備を進めている。
 7月には都路まちづくり協議会が発足し、住民主体で地域活性化策を模索している。都路町商工会は「都路たまご」を使った六次化商品を開発し、販路拡大を目指す。
 
◆葛尾村 準備宿泊27世帯申請
 
 8月31日から準備宿泊が始まった。9月8日現在で27世帯、52人が申し込んでいる。
 国直轄除染の今年度末までの完了を前提に、村は来春の帰還開始を目指している。住民の意向と住環境の整備状況などを考慮した上で、国と避難指示解除時期について協議する。
 村中心部の簡易水道を平成27年度末までに整備する。葛尾診療所と葛尾歯科診療所を避難指示解除とともに再開する見通しが付いた。帰還促進のため高齢者住宅や定住促進住宅を建設し、お年寄りの生活を支える活性化センターや、せせらぎ荘を改修する。帰還困難区域以外の除染は宅地が完了。7月1日現在の農地の進捗率は86%、道路は7月末で53%となっている。
 
◆南相馬市 小高に仮設店開業へ
 
 小高区全域と原町区の一部に設定された避難指示解除準備区域と居住制限区域の平成28年4月の解除を目指している。
 両区では11月末まで準備宿泊が行われている。市によると8月31日現在、427世帯(1198人)が申し込んだ。小高区では今月末、食料品や日曜雑貨を扱う仮設店舗がJR小高駅近くにオープンする。
 避難区域内の宅地除染の進捗(しんちょく)率は8月7日現在で約32%にとどまっている。損壊家屋の解体は約1900件の希望があるが、終了したのは約500件。
 避難区域外では、除染廃棄物の仮置き場確保が課題となっている。鹿島区の八沢、真野両地区で設置場所が決まらず、住民との協議が続いている。
 
◆飯舘村 環境省に再除染要望
 
 全村避難しているが、帰還困難区域の長泥行政区を除いた村内全域の避難指示を平成29年春までに解除する方針だ。
 村は環境省による直轄除染の短期目標を空間放射線量で年間5ミリシーベルトとしている。同省は空間放射線量を計測した結果を順次、住民に伝えているが、局所的に5ミリシーベルトを超えている地域が一部にある。村は目標値を下回る徹底した再除染を求めている。帰還困難区域の除染計画は具体化していない。村は早期に開始するよう要望している。帰還困難区域以外の住宅周辺の除染は完了した。
 帰還に備え自宅を補修する村民もいる。ただ、左官や瓦職人が不足しており、着工が遅れる懸念がある。
 
◆川俣町 井戸掘削無償で実施
 
 来年春、山木屋地区の避難指示解除を目指している。
 住民帰還に向けては、生活用水の確保が大きな課題となる。上水道設備がなく、飲料水として利用する井戸や湧き水の安全性に不安の声が上がっているためだ。8月31日に始まった準備宿泊の登録者は住民全体の5%に当たる約60人にとどまる。町は飲み水を心配して自宅に戻らないケースも多いとみて、無償で新たな井戸の掘削を実施している。同地区の約560世帯のうち約200世帯が申し込んだが、終了したのはまだ25世帯だ。町は今年中に残りの工事を発注し、新設を急ぐ。
 環境省の直轄除染は住宅周辺が終わり、年内には農地や道路を含めた全ての工程が完了する見込みだ。
 
◆大熊町 メガソーラー着工
 
 町西部の居住制限区域にある大川原地区に復興拠点を整備する。
 同地区では既に、福島第一原発の作業員向けに食事を提供する東電給食センターが稼働している。東電はJヴィレッジ(楢葉・広野町)の再開を見据え廃炉作業の拠点を移す方針で、約750戸の宿舎建設を始めた。
 町は平成27年度内に大川原地区の上水道工事を終える予定。下水道工事も進んでおり、今後は大規模災害時に避難所として利用できる住民交流施設や町営災害公営住宅を整備する。大規模太陽光発電施設(メガソーラー)も着工した。
 8月から下野上地区など帰還困難区域の約95ヘクタールで除染作業が始まった。進行状況によっては、29年度に予定している区域見直しの前倒しも検討する。
 一方、町は3月に策定した第二次復興計画で、帰還開始時期を1年早め「29年度以前」とした。しかし、商業施設や医療機関が再開する見通しは立たず先行きは不透明だ。
 
◆双葉町 災害公営住宅 「集う場」併設
 
 町全体の96%が帰還困難区域に含まれる。現在、残り4%の避難指示解除準備区域内にある沿岸部の両竹、浜野両地区で除染を進めている。今年度中に完了する予定だ。
 平成30年度までに防潮堤、32年度までに防潮林を整備する。両地区を足掛かりに復興を目指す。
 一方、町民の生活再建の拠点となる災害公営住宅190戸をいわき市勿来町酒井地区に整備する。
 店舗や医療・福祉施設、簡易宿泊所が併設され、町民が集う拠点となる。全施設の完成は29年度下期になる予定だ。ただ、完成時期が遅れれば災害公営住宅の入居希望者が減り、整備計画が実態と合わない可能性が出ると町は懸念している。町民の暮らす仮設住宅は老朽化が進み生活環境が悪化していることも踏まえ、町は新たな拠点施設の部分的供用開始を検討する。
 
◆浪江町 多機能備える施設を整備へ
 
 現時点で平成29年3月の帰町開始を目指している。
 町内で行われている国直轄除染の完了状況は7月末時点で宅地19%、農地が18%、森林34%、道路40%となっている。仮置き場については7割が確保されており、今後も設置作業を進めていく。
 基幹産業の農業再生に向けては28年度までを実施期間としている「町農業再生プログラム」に基づき、担い手育成や、情報通信技術を活用して遠方から管理する技術確立に取り組む。
 帰町推進のため、町は町内の六号国道沿いに、町民らの交流と復興状況の発信を担う拠点施設を整備する方針だ。農作物や水産加工品の直売、大堀相馬焼の販売などの機能を想定している。
 
◆富岡町 駅周辺などに集中
 
 6月に策定した第二次町災害復興計画に「早ければ平成29年4月の帰還開始を目指す」と明記した。
 帰還に向け、町内のJR富岡駅から六号国道周辺にかけた曲田・岡内地区を復興拠点と位置付け施設整備を集中的に進める方針だ。一時帰宅した町民向けの交流サロンを10月に開設する。公設診療所、集約型の商業施設、災害公営住宅などを設ける準備も進めている。
 避難先で町民が住宅を建てるケースが見受けられる。町は復興拠点の整備を急ぎ、復興に向かう古里の姿を示して帰還への思いをつなぎとめたい考えだ。
 原発事故で発生した指定廃棄物を町内の民間管理型処分場に埋め立てる環境省の計画に、町民から反対意見が出ている。町は今後、国から示される安全対策や地域振興策などを踏まえ、慎重に対応を検討する。
 
 

カテゴリー:震災から4年