東京電力が農林漁業者への賠償金仮払いを発表した13日、県内の関係者からは仮払いの時期や対象などに怒りや不満の声が上がった。「対応が遅過ぎる」「風評被害の方がむしろ深刻」...。いまだ福島第一原発事故の収束は見通せず、生産者たちの不安は消えない。
「われわれの苦しみを東電は分かっているのか」。いわき市勿来町の漁業今泉安雄さん(54)は憤りを隠さない。放射性物質の流出で操業自粛が続いている。
漁業関係者によると、3~5月が最盛期のコウナゴ漁は、通常なら一カ月で300万円以上を稼ぐこともある。収入の柱を断たれ、生命保険を解約して漁船のローンや生活費に充てている漁師も少なくないという。「補償対象の魚種を拡大しなければ漁師は絶対納得しない。生活の糧を奪った責任をちゃんと取ってほしい」
伊達市保原町では出荷できずに伸びきったホウレンソウが畑一面を覆っていた。「処分方法が分からず、こうしておくほかない」。農業安田善也さん(73)は深いため息をつく。「今暮らすだけでも苦労している農家もいる中で、半分だけでももらえるのはいい。しかし、残り半分はいつ支払われるのか...」と不安が消えない。
直売所に出荷していたキャベツやレタス、ホウレンソウが出荷制限対象となった塙町の近藤正典さん(71)は「仮払金が損害の半額では、経費しか賄えず生活費には回らない」と納得していない。主力のシイタケも風評で取引停止となっており、「むしろこちらの方の被害が大きい。今回の対象とは別かもしれないが、補償を求めていく」と語った。
大玉村の50代の酪農業の男性は出荷制限が掛かり一カ月以上、原乳を捨て続けた。その量は1日当たり約550キロ。このままどうなるのか。そんな恐怖にさいなまれた。「浜通りや飯舘村の酪農家、畜産農家の仲間の中には廃業する人もいるだろう。きちんと優先順位をつけて、被害が大きかった農家から救ってほしい」と注文を付けた。
風評被害を懸念し今年の作付けを見送った県たばこ耕作組合の組合員は既に購入した資材や肥料の支払いを抱える。だが、葉タバコは今回の仮払いでは対象外だ。組合理事の田村市船引町、箭内倉吉さん(63)は「業界のためを思って決めたのに、対象外にするのはおかしい。1日も早い賠償を」と語気を強めた。
(カテゴリー:福島第一原発事故)