東日本大震災アーカイブ

絆探して(11) 役場どこに置く 県内移転で揺れる双葉町

 「いわき市に転入を希望する町民が増える可能性がある」。双葉町の井戸川克隆町長は1日、いわき市と双葉郡の首長との懇談会で、避難した町民の教育や医療、雇用への協力を市に要請した。

 双葉町は原発事故によって立ち入り禁止の警戒区域に指定された。全町民約7千人の避難先は42都道府県に広がっている。臨時の町役場は町から約200キロ離れた埼玉県加須市の旧県立騎西高に置かれている。4月当初は約1200人もいた町民は、7月末現在で約900人にまで減った。

 いわき市には町民の1割近い約650人が生活。新たに約600人の転入が見込まれ、2割弱は移る。清川泰弘町議会議長は「古里に少しでも近い場所に移りたいと思う町民が多い」とみている。

■将来見えない

 猪苗代町内のホテルには町民約700人が暮らす。埼玉県内の避難先から移った小川貴永さん(41)は、震災前、町内で養蜂業を営んでいた。今は町臨時職員として月に数回、町民の一時帰宅を手伝っている。「ホテル生活の当面の期限が今月15日に迫っている。役場機能が県内にあれば安心して過ごせるのに...。今のままでは町の将来が見えない」と困惑を隠さない。

 「町民が結束するための情報を出すのが行政の務めだ。早く役場機能を福島(県内)に戻してほしい」。7月21日、ホテルで開かれた仮設住宅説明会で、臨時役場の県内再移転を求める要望が相次いだ。出席者は「町が住民の声に耳を傾けてくれない。コミュニティーの維持どころか、このままでは町がなくなる」と訴えた。

 ホテルで生活している町民は役場機能の県内再移転を求める署名活動を7月下旬に始め、わずか数日間で町民の2割を超える約1700人が賛同した。住民代表は5日に県庁、9日に埼玉県庁に出向き、町当局への働き掛けを両県に求める。

 その一方で、県内再移転に慎重な意見も根強い。埼玉県に避難している40代の男性は「わが子が小学生で、県内に戻っても放射線の影響が不安だ。福島か埼玉かの選択肢はありがたい」と町の姿勢を支持している。

■収束まで埼玉に

 町議会は6月定例会で、猪苗代町のホテルに置いた町出張所の設置期間を今月16日まで延長する条例改正案を否決した。7月16日、出張所は連絡事務所となり、被災証明の即時発行などが行われなくなった。井戸川町長は町議会などで「将来は福島に戻る」としながらも、放射線の危険性から少しでも町民を離すことを理由に、埼玉にとどまる考えを変えていない。

 原発事故の収束に向けた取り組みは、今後3~6カ月で原子炉を冷温停止状態にする「ステップ2」に入っている。だが、警戒区域の避難解除の具体的な基準や時期は国から示されず、町役場が県内に戻る時期は見えてこない。

 原発事故は、古里の誇りや、ささやかな幸せを奪った。事故収束の見通しは立たず、避難の終わりは見えない。人々は苦しさの中にあっても、帰郷を心に描く。掛け替えのない絆をたどり、再生への道筋を探る。

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