東日本大震災アーカイブ

絆探して(14) 川内の誇り 盆野球 「伝統守る」開成山で開催へ

64回目の盆野球に向け、大会運営などを打ち合わせる実行委員=郡山市・ビッグパレットふくしま

 川内村の少年は毎年8月に村内で開かれる夏季野球大会「盆野球」に憧れる。高校、大学、社会人へと続く"野球人生"のステップとした村民も多い。
 今年の実行委員長を務める遠藤拓郎さん(35)は中学時代からほぼ毎年、盆野球に参加し、平成6年の夏の甲子園に双葉高の捕手として出場した。中学3年の時に準優勝し、打撃賞を受けたことが忘れられない。大会は今年64回を数える。「震災や原発事故があったからといって、伝統ある大会を途切れさせたくなかった」と避難先の郡山市内で仲間と準備に取り組む。

■戦後の希望
 盆野球は戦後間もない昭和23年、新しい村づくりと青少年健全育成の希望を託して始まった。地域や職場、学校などのチームが優勝旗を懸けて熱中する村の一大イベントに育った。プレーや応援を通し、村民と村出身者が世代を超え結び付きを強めた。名誉村民の詩人、故草野心平さんもこよなく愛し、通算15回、始球式のマウンドに上がった。
 原発事故で、村は警戒区域と緊急時避難準備区域が混在する。役場機能は郡山市内に移り、約3000人の村民は市内の仮設住宅を中心に県内に約2400人、県外に約600人が避難生活を送る。
 村内での開催は断念せざるを得なかった。郡山市が8月15日の開成山野球場を提供してくれた。遠藤さんは、選手が集まるか不安だったが、県内外の避難者や帰省する人など百数10人が申し込んでいる。
 8行政区を4チームに分ける。川内中の生徒は例年通り3年生と1.2年生の2チームで出場する。川内野球スポーツ少年団の児童と保護者とのミニ試合も予定している。遠藤さんは「古里の元気を発信したい」と意気込む。始球式に臨む遠藤雄幸村長は「村復興のシンボル事業として成功させたい」と心待ちにしている。

■激励ステッカー
 《村を去った人々の心をふるさとにつなぎとめ(中略)、ふるさとへの愛着と誇りを育てる夏季野球大会》。
 平成9年の第50回大会記念誌に元村長の渡辺尊之さん(82)はあいさつ文を寄せた。震災後は、いわき市の家族宅と、自宅を行き来している。「盆野球にはスポーツ以上の役割がある。ぜひ続けてほしい」とエールを送る。
 大会用ヘルメットの正面には川内カラーの緑色で記された「盆」の文字、そして「がんばろうKAWAUCHI」のステッカーが貼られる。

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