東京電力福島第一原発事故で、局地的に放射線量の高い地点の住民に自主的避難を促す「特定避難勧奨地点」が最初の指定から間もなく2カ月を迎える。24日には細野豪志原発事故担当相が伊達市霊山町下小国の勧奨地点を訪れ、除染のモデル事業を視察。住民の早期の帰宅に向け政府として全力で取り組む姿勢をアピールした。しかし、除染の主体や順番の決め方、避難先の住宅確保など課題は山積し、指定を受けた住民の不満もくすぶっている。
細野原発事故担当相は、49地点(54世帯)が特定避難勧奨地点に指定された下小国地区に初めて立った。道路脇の土壌採取の様子などを見て回り、「除染が進めば、(自宅に)戻れることになる。しっかりと行い、きれいな福島を取り戻したい」と言葉に力を込めた。
政府は勧奨地点指定後、月一、二度のペースで線量調査を行い、数値が下がれば指定を解除する方針だ。早期の帰宅に向けては住宅の除染作業が不可欠となるが、計画づくりは進んでいない。
「一刻も早く自宅に戻りたい。それができないなら、家と土地を買い取ってほしい」。勧奨地点に指定され、中学生と幼児の2人の息子と山形県天童市に避難した南相馬市の主婦(36)は遠く自宅の方角を見詰める毎日だ。団体職員の夫は自宅に残った。数年前に建てた自宅のローンがあり、二重生活は家計に響く。しかし、市から「除染を実施する」との連絡は届かない。
南相馬市は学校や公園など公共施設の除染を開始したが、民家については住民や町内会に作業を実施してもらう方針を示している。県の制度を活用し、高圧洗浄機など関係機材を購入する行政区に50万円を上限に補助するが、市民からは「一般人に作業は難しい。行政が責任を持って取り組むべきだ」との批判が上がる。
伊達市は来月中にも勧奨地点となった民家の除染に着手する。放射線量の高い地点からスタートさせる方針だが、地区や世帯など具体的な作業の順序は示されていない。「どこから手を付けるのかは難しい問題。優先順位を示せば、住民から不満が出る」。市の担当職員は頭を抱える。
放射線量が基準値を下回った際の指定基準をめぐって住民の不公平感も消えない。
伊達市では、妊婦と小学生以下の子どものいる世帯が指定されたが、南相馬市では、高校生以下の子どもがいる世帯も対象となった。勧奨地点に指定されれば、国民健康保険料の減免など国の支援策が受けられる。指定されたかどうかで、東電から受ける賠償の内容が違ってくる可能性もある。
伊達市小国地区の住民は、不公平感が出ないよう地域全体を指定するよう国に要望している。だが、政府の原子力災害現地対策本部は「県、地元自治体と話し合って指定の範囲を決めた。地域全体の指定は考えていない」とつれない。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)