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【南相馬 大部分が避難区域】医師、看護師不足続く 患者増対応不能...

大町病院の藤原看護部長は看護師への説得を続けている=南相馬市原町区

 南相馬市で医療環境の悪化が深刻化している。東京電力福島第一原発事故で多くの地域が避難区域に設定されている中、事故直後に離れた医師、看護師らは地元に戻れず医療スタッフの慢性的な不足は解消されていない。万一の事態に患者らが速やかに避難できるよう入院診療も制限されたままで、緊急性の低い患者は市外の病院などを頼るしかない状態が続く。医療関係者は「一刻も早い国レベルの対応がなければ地域医療は崩壊する」と危機感を強めている。

■休み返上

 南相馬市で診療を継続している病院は6カ所、診療所は26カ所で、震災前と比べて病院は2カ所、診療所は13カ所減少した。医師は震災前の約100人から半分以下に減り、看護師は震災前の5分の1に激減しているとみられている。

 市立総合病院は震災後、一度も休診せずに診療を続けているが、医師は震災前の12人から7人に減った。金沢幸夫院長は「医師不足は市内の病院の共通の課題。今後は近隣自治体や福島医大などを含めた交流が必要」と指摘する。

 原町区にある大町病院の医師は震災前の12人から現在は8人。関東圏の病院から医師3人の応援を得るなどして対応している。看護師は96人が42人と半分以下になり、休み返上の勤務を強いられている状況だ。

 藤原珠世看護部長は電話や手紙でかつての同僚に復職を求めており「避難した事情は分かるが、地域医療の再生に力を貸してほしい」と訴える。

 津波で小高区の家を失い、原町区のアパートで生活する無職男性(58)は「いつ病気になるか分からない。しっかり対応してくれるか不安」と表情を曇らせる。

■病床、2割だけ

 入院診療で利用できる市内の一般病床は原町、鹿島両区内の5病院合わせて285床で、原発事故前の2割程度に制限されている。

 このうち、緊急時避難準備区域内の原町区には市立総合、大町、渡辺、小野田の4つの総合病院(計792床)がある。原発事故当初、国・県は事故の拡大に備えるとの理由で入院診療を認めなかった。その後、市立総合病院と大町病院で各5床・計10床に限って原則3日以内の救急入院を可能にした。

 原発の状態が落ち着くにつれて避難先から市民が戻り始め、救急患者も次第に増えた。しかし、入院診療が制限されているため、一刻を争う救急患者の多くは福島市や宮城県内の病院に転送せざるを得ず、病院側は規制の緩和を県に要請。この結果、6月下旬に入院条件が緩和され、4病院合わせて205床に拡大された。

 ただ、依然として緊急性が低いケースの入院は認められておらず、市外の病院の利用を強いられる患者は少なくない。市内にとどまりたいという患者に対しては、訪問診療や訪問看護で対応しているが、医療スタッフが不足している病院にとっては負担となりかねない状況だ。

 経営面への影響も懸念されている。入院診療は総合病院にとって収入の大きな柱。私立の大町病院、渡辺病院、小野田病院では収入の7~8割を占めており、入院病床の削減が経営を圧迫している。医療関係者の一人は「このままでは1年以内に全ての病院がつぶれかねない」と不安を隠さない。

非難区域解除で人口増想定 「国、サポートを」

 国は今月上旬から緊急時避難準備区域の解除に向けて関係市町村と協議しており、9月中の解除が見込まれている。解除されれば南相馬市内の人口はさらに増えるとみられている。医師不足と入院制限が続いている中で、想定される患者数の増加にどう対応するかが緊急の課題となっている。

■再生への課題

 避難準備区域の解除を見据え、市は今月23日、相双地域の医療関係者を集め「市地域医療在り方検討委員会」を設置した。今後、医療スタッフの確保や患者数の増加に対応した救急医療の体制づくりなどを検討する。市の担当者は「厚生労働省と県の担当者をオブザーバーとして招いた。われわれの要望・提案に素早く対応してくれることを期待したい」と話す。

 市医師会も動きだす。地域医療の再生には人材確保が最優先として、近く市外に離れた医師や看護師らを呼び戻すための方策を協議する方針だ。高橋亨平会長は「医師はもちろん、共に働く看護師らの存在が重要だ。国や県、市でも呼び戻しに力を入れてほしい。患者数そのものが少ない状態では経営改善は難しい。行政に補助金などのサポートもお願いしたい」と強調する。

■周辺への波及

 南相馬市の入院制限の影響は、隣接する相馬市にも及んでいる。

 相馬市によると、南相馬市内の病院に入院できない患者の受け入れが進んだ結果、基幹病院は空きベッドが少なくなっているという。

 相馬市保健福祉部は「原発事故直後の危機的状況からは脱却しつつあるが、地域医療は依然厳しい。抜本的な改革を国に求めていきたい」としている。


【背景】
 東京電力福島第一原発の事故により、南相馬市内は警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域、特定避難勧奨地点、無指定の5つの地域に分断されている。事故直後は約7万1000人いた人口が約1万人に減り、現在は約4万人に戻った。3月1日時点と比べ、現在の市内居住率は老年人口(65歳以上)が65.3%。生産年齢人口(15歳以上~64歳以下)が56.3%、年少人口(14歳以下)は33.6%と低くなっており、市内では産婦人科や小児科がある診療所などの多くが休診している。震災と原発事故の直後は多くの医療機関が休業。全国から駆け付けたボランティアが寝たきりの老人がいる個人宅などを巡回し、診察に当たった。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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