東日本大震災

「福島第一原発事故」アーカイブ

  • Check

煩雑手続きに困惑 東電賠償基準 自主避難に触れず

預金通帳を不安そうに見つめる森山さん=30日、福島市笹谷の仮設住宅

 東京電力が福島第一原発事故の賠償金支払いの算定基準を発表した30日、避難者から早期支払いを求める声が相次いだ一方、領収書や各種証明書の提出を求められたことで十分な賠償が得られるのか戸惑いや不安も広がった。牛肉の放射性セシウム汚染への対応は先送りされ、速やかな賠償を求める声が一段と高まった。放射線への影響を懸念して自主避難した人たちへの賠償判断も後回しとなり、不満の声も上がった。
 「いまさら領収書が必要と言われても捨ててしまった」。福島市笹谷の仮設住宅に避難している浪江町の森山洋康さん(35)は戸惑いを隠さない。避難生活でガソリンや食費、衣服に15万円以上使っているが、領収書がないため正確な数字は分からないという。
 地元ではコンビニエンスストアの店長をしていた。現在は雇用保険を生活費に充て、妻と子ども3人の5人で生活しているが、家計はぎりぎりだ。避難前の収入から現在の収入を差し引いた額が賠償される点については「今より楽になるのでありがたい」と話す。ただ、「避難したのは東電の責任なのだから、なくても一刻も早く賠償を認めてほしい」と求める。
 浪江町から同じ仮設住宅に避難している無職佐藤うた子さん(68)は土木作業員のおい(44)と2人で生活している。ガソリン代、高速代、食費など避難中に2人でかなりのお金を使ったが、領収書類は1枚も保存していない。「年金とおいの給料だけでは、この先心もとない。賠償を認めてもらえるか心配だ」とため息をつく。
 会津若松市の仮設住宅に避難する大熊町の農業仲野孝男さん(66)は地元でナシを栽培していた。自宅は原発から約5キロの警戒区域内にあり、収入などを証明する書類などは置いてきたままだ。簡単に戻れない現状だけに「減収分を請求するシステムが複雑でなければいいが...」と不安を口にした。
 郡山市の仮設住宅に母親と住む40代の女性は「マイカーの燃料が切れたため、タクシーを何度も使ったが領収書はもらっていなかったと思う」と話す。震災後、川内村や田村市を経て4月下旬にビッグパレットふくしまに避難したが、親の通院でもしばしばタクシーを使っていたという。「領収書がなくても費用を認めるべき。支払い時期も遅過ぎる」といら立ちを募らせた。

■賠償金 自主避難に触れず 畜産農家の汚染除去費も

 「納得がいかない。もし賠償しないのなら全ての放射性物質を東京電力の責任で今すぐ除去すべきだ」。会津坂下町で肉用牛30頭を肥育する農業佐藤真也さん(41)は東電の賠償金の算定基準に牛肉の放射性セシウム汚染への対応が盛り込まれなかったことに対し、怒りの声を上げた。
 出荷停止中は、牛が病気などにならないよう慎重に育て、解除後の31日に何とか出荷できるようになった。しかし、放射性物質が少しでも検出されたら正常な価格では売れないとの不安は消えず「賠償方針を早期に明確にしなければ、畜産を続ける農家がなくなる」と窮状を訴える。
 二本松市を中心に約700頭の肉牛を飼育するエム牧場は出荷停止の影響で厳しい経営が続いている。村田淳社長(56)は「肉牛農家をばかにしている。この問題の責任が東京電力にあるのは周知の事実。一刻も早く東電の責任で賠償してほしい」と語気を強めた。
 福島市から山形市に自主避難した女性(33)は、借り上げ住宅で3歳の長女、1歳の長男と3人で生活している。子どもへの放射線の影響を考え、避難を決めた。自主避難先への移動費や、家電購入費など普段の生活では考えられない費用が掛かった。今は福島市内で住んでいたころに支払っていた駐車場代や長男の保育園代を生活費に回してしのいでいる。
 東電が賠償方針を先送りしたことに対し「東電には当たり前の生活を壊した責任がある。原発事故が起きた当初から市内の線量が高いことを知っていたはず。今回、賠償を見送ったのは逃げているようにしか思えない」と会社の姿勢に疑問を抱く。放射線から逃れようと、県内では避難指示が出ている区域以外からも多くの県民が県外などに自主避難している。「東電は国の税金を使えるようになるまで様子をうかがっているのではないか。子どもを守ろうとする多くの母親の必死な気持ちを考えてほしい」と望んだ。

カテゴリー:福島第一原発事故

「福島第一原発事故」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧