東日本大震災アーカイブ

果物、風評被害が深刻化 「抜本的な対策急務」

収穫したナシを見詰める佐藤さん。価格上昇の要因は見当たらず、不安といら立ちが募る

 東京電力福島第一原発事故の風評被害に対する県内果樹農家の懸念が拡大している。主力のモモに続き、ナシの価格も下落傾向にある。生産量日本一の伊達市の「あんぽ柿」などへの影響も避けられない状況だ。県は「果物王国・福島」の再興に向け信頼回復に努めているが、農家から除染など対策強化を求める声が上がっている。

■あかつき不振

 伊達市保原町の直売所・ふれあい夢市場に3日、地元の農家が「川中島」「ゆうぞら」などモモの晩生種を次々と運び込んだ。だが、どの農家も表情は険しかった。「例年より出来はいいのに、今年は敬遠されがちだ」。60代男性は苦悩をにじませた。

 JA伊達みらいの共同果樹選果場によると、今年の搬入数は多い時で1日約2万個と例年の1.5倍に上っている。顧客に直接販売する贈答用の需要が伸びずJAに持ち込む農家が増えたためだ。

 販売不振と価格低迷は、牛肉の放射性セシウム汚染問題が起きて以降、顕著になった。主力の「あかつき」の市場価格は例年の半分以下の1キロ200円程度に下落した。伊達市保原町の渡辺幸市さん(60)方は、肥料や農薬などの費用を差し引けば収入はほぼゼロという。「このままでは生活が成り立たない」と窮状を訴える。

 果樹農家にとっては観光客も大きな収入源だ。しかし、風評被害で農園を訪れる人も激減している。

 福島市観光農園協会に加盟する48農園には、例年なら首都圏などからモモ狩りツアーのバスが次々と訪れる。今年は皆無の状態で、各農園ともに売り上げは六~八割程度も落ち込んでいるという。片平新一会長は「国や県の融資制度を使ってしのいでいる」と厳しい現状を語る。

■ナシ、カキは...

 昨年実績で全国3位の生産量を誇るナシは、主力の「幸水」「豊水」が今月、出荷のピークを迎えるが、生産者には不安といら立ちばかりが募る。

 福島市下野寺の佐藤吉則さん(58)は全国の相場に気をもむ。県内産の市場価格は現段階で10キロ当たり2000円程度と、他県産より800円ほど安い。今後も上向く気配はなく、「原発災害にいつまで苦しめばいいのか」と怒りをあらわにする。

 カキやブドウ、リンゴなどへの懸念も尽きない。伊達市のあんぽ柿の生産農家では、カキの収穫を控える動きも出始めた。「風評被害が続けば若者の農業離れが加速しかねない」と、生産者の一人は不安を口にした。

■安心の基準

 県は収穫期ごとに首都圏で試食会などを開いて安全性をアピールする。卸業者への働き掛けも強める方針だ。
 ただ、消費者や店舗側の判断基準はまちまちだ。検査結果が食品衛生法の暫定基準値を下回れば大丈夫との受け止め方がある一方、未検出でなければ安心できないとの声もある。安全性をただ訴えるだけでは風評は振り払えないのが実情だ。
 「PRなど小手先の手法には限界がある。農地全体の除染など抜本的な対策が急務」と、関係者は指摘した。

【背景】
 平成22年の県内モモの販売農家は3820戸。生産量は2万8200トンで全国2位となっている。県によると、今年の県産モモの市場価格(東京・安値、五キロ)は七月段階で平年並みの1600円程度だったが、8月3日に1260円に下がり、同12日に525円と4分の1に急落。原発事故の風評被害で観光農園と贈答用の売り上げが低迷、JAなどを通じ市場に大量に出荷されたことが価格低迷の一因。8月27日には1050円とやや持ち直したが、昨年より600円近く安い。他の果物も同様の事態が懸念されている。

カテゴリー:3.11大震災・断面