東日本大震災アーカイブ

【小学校の運動会に異変】除染後も消えぬ不安 時間制限や屋内開催

17日に運動会が開かれる郡山市の芳賀小。今も屋外の体育で3時間の制限を設けている

 東京電力福島第一原発事故の放射線の影響は、県内の小学校で今月下旬から本格化する秋の運動会にも広がっている。午前中だけに限定するなど時間制限を設ける学校が相次ぎ、体育館など屋内開催とするケースも目立つ。中止する学校も少なくない。多くは春から延期されており、校庭や校舎の除染を終えても、消えない保護者の不安が背景にある。どうすれば学校生活の安全・安心は得られるのか。教育現場の苦悩は続いている。

■午前中のみ

 福島市内の小学校は現時点で51校のうち14校が屋外で時間制限を設け、午前中に実施する方向だ。このうち、立子山小は練習でも極力屋外に出ないよう競技内容の説明は屋内で行うなどの徹底ぶりだ。伊藤きみ子校長は「子どもの安全と保護者の安心が第一。除染ですでに校庭の空間放射線量は低下しているが、放射線を受ける量は少ない方がいい」と話す。

 本宮市内の小学校はいずれも時間を短縮する計画だ。市教委関係者は「保護者からなぜ運動会を外でやるのかと問い合わせが来る。時間を最低限に制限すると説明しているが、納得できない人もいる」と説明する。

 「本当は思う存分、やらせてあげたいが...」。郡山市の芳賀小の酒井真知子校長は本音を漏らす。

 例年は夕方まで開く運動会を今年は午前中の3時間に絞る。学校の屋外活動を1日3時間以上行わないとする市教委の方針に沿って判断した。これに伴い、例年20程度の種目数は4つに激減する。

 時間制限による開催について、福島市の小学校に長女を通わせる母親(36)は「いつものように1日がかりの運動会では放射線が心配だが、時間が短いとあまり気にならない」と歓迎する。二本松市の東和小の保護者は自分は心配していないとしながらも、「一部には時間制限をしても不安視する保護者もいる。それも親の気持ちとして分かる」と理解を示す。

■工夫重ね

 「限られた条件の中で、思い出深い行事になるよう工夫し、夏休み前から準備している」。福島市の福大付属小の内藤良行副校長は意気込む。

 体育館で開く同校は狭い館内に全校児童や保護者が一度に入るのは困難と判断。児童だけの全体会を最初と最後に催す以外は低学年、中学年、高学年で3つに時間帯を分けて実施する。時間外の児童と保護者には教室で待機し、テレビ中継で体育館内の様子を見ながら応援してもらう。

 郡山市の永盛小は今月初め、保護者にアンケートし、校内の体育館で開くことを決めた。福大付属小と同様に3部に分けて競技し、狭い屋内用に競技内容も変える。同市の柴宮小は校庭と体育館の併用を検討している。徒競走やリレーなどは校庭で、玉入れやダンスなどは体育館で行い、屋外にいる時間を可能な限り減らす考えだ。

安全優先、中止も 保護者の気持ち考慮

■代替措置

 二本松市の杉田小は放射線の問題で4月から延期していた運動会の9月開催を夏休み前に断念した。「残念だが、一部の児童だけが参加できないような状況はつくりたくない」。渡辺光太郎教頭は苦しい胸の内を明かす。

 保護者の不安を考慮した上、児童、保護者を含めて1000人近い人数を収容できる会場や、会場までの移動手段を確保できないことから決めた。その後の保護者の反応は「やめて良かった」「屋内でも開いてほしかった」などさまざま。同校は通常の学校生活でも屋外活動を自粛している。運動会に代わって10月以降、学年単位で保護者を交えた校内イベントを体育館で開く予定だ。

 福島市の吉井田小は中止し、学年ごとの2時間程度のスポーツ集会に代える。放射線問題が主な理由だが、秋に予定されている他の行事との日程のやりくりがつかないなどの事情もあるという。

 福島市内では同校を含め9校が中止を決めている。

 郡山市の芳山小は1学期中に保護者の意見交換を重ね、PTA役員会で中止を決めた。代わりに各学年が音楽や調査学習など成果を披露する学習発表会を10月下旬に予定し、保護者や地域住民を招待する方針だ。

■鼓笛パレードも

 放射性物質の影響は他の行事にも広がっている。当初は5月11日に予定され、秋に延期された福島市小学校鼓笛パレードは最終的に中止になった。主催する市教委の担当者は「放射性物質の影響に加えて、学校行事と重なり準備時間の確保が難しい」と理由を話す。この他、県内各地で秋恒例の収穫体験などを取りやめる学校も多い。

■バランス

 福島大人間発達文化学類の森知高教授(体育科教育)は「運動会は身体運動の授業の成果を確認する学習指導の一つ」と教育的な意義を強調する。ただ、放射線量が低下しても不安が消えない保護者の気持ちに理解を示し「現状では全ての親から運動会の通常開催への了解は得られない。子どもと保護者は一体で、学校との信頼関係が重要。学校が無理やり通常通りに開催するわけにはいかないだろう」と受け止める。

 今後の屋外活動については「運動の必要性や保護者の考え方、放射線に対する安全性の確保などバランスを取りながら慎重に判断するべき」と求めた。

【背景】
 文部科学省は4月に屋外活動を制限する基準として放射線量を毎時3・8マイクロシーベルトとする暫定値を設定した。福島、郡山、伊達の3市の小中学校など13施設で基準値を上回り、郡山市をトップに放射性物質の付着した校庭の表土を取り除く除染が始まった。福島市では除染の結果、全72公立小中学校で毎時1マイクロシーベルトを下回った。他の自治体も表土除去の効果は表れているが、保護者の不安を取り除くまでには至っていない。比較的放射線量の低い会津若松市では、小学校19校うち17校は春に通常通り運動会を開き、残る2校も10月9日に開催を予定している。

カテゴリー:3.11大震災・断面