「くよくよしても、しょうがない。前を向いて生きるしかない」。富岡町民が避難している大玉村の安達太良仮設住宅で一人暮らしをしている佐藤トメさんは、大正6年生まれの94歳。仮設住宅で最高齢だが、誰よりも元気に生活している。トメさんを慕う町民が毎日部屋を訪れ、背筋をピンと伸ばして明るく生きる姿に頑張り抜く勇気をもらっている。
トメさんは東京電力福島第一原発事故後、東京都の長女の家に身を寄せていた。しかし、一人暮らしが長かったため「一人の方が気が楽」と8月下旬、大玉村の仮設住宅に引っ越した。
散歩が日課で、仮設住宅周辺を時間をかけて歩く。仮設住宅の仲間と一緒に散歩するときもあるが、最高齢のトメさんがいつも先頭になる。食事は、3食自分で作る。目も耳も、特に悪い所はない。
仮設住宅の暮らしについて、「今までこんなに楽をしたことがない」と冗談交じりに笑う。4人の子育て、畑仕事に追われていた若いころと比べれば「なんともない。何もしていなくて申し訳ない」。
トメさん方を訪れる町民の方が「まだまだ頑張れる」と励まされて帰っていく。
原発の恩恵を受ける富岡町を見てきただけに原発事故については複雑な思いがある。「15年ほど前に亡くなった夫も福島第一原発で働いていたことがある。文句ばかりは言えない。ただ、二度とこんなことが起こらないように国も東京電力も勉強してほしい」と注文を付ける。
「115歳まで生きる」と宣言するトメさんの夢は「やっぱり町に帰ること」。震災で倒れたままの先祖のお墓が気に掛かっている。「いつか必ずふるさとに戻りたい」と言葉に力を込めた。
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